My younger brother | ナノ





難しいお年頃 (2/3)
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「はーい、どうぞ」





そう返事をするとゆっくりドアが開き、
テニスウェア姿の赤也が部屋に入ってきた。

さっき学校から帰ってきたばかりのようで、全身泥だらけで汗はびっしょり。

きっとすごく疲れているはずだけど、
ベッドでくつろぐだらしない格好の私を見つけるとぱあっと顔を輝かせて、





「今日も練習楽勝だったぜ!まだまだ動き足りねーわ」





と自慢げに言う。

ほんと、試合に負けてキレてる時とかは目も合わせられないぐらい怖いのに。
普段はこんなに人懐っこくてかわいい笑顔を見せるのよね。





「へーえ。そんな勢いなら真剣に来年、赤也が立海テニス部の部長なんじゃ」





私は寝っ転がったまま顔だけ彼の方を向いた。




「ったりめーだろ。今更何言ってんだよ…今年の2年のメンツから考えて新部長は俺以外ありえねーっつーの」




呆れたように言いながら、私の近くにあぐらをかく赤也。
置いてあったネコのぬいぐるみをなんとなく愛おしそうに触っている。





「そっか。じゃあ私来年、いろんな人に自慢していい?うちの弟がさー、って」

「ああ、もちろんだ。テニス全国No.1の中学でNo.1の実力を誇る最強部長だって言っといてよ」

「うん、わかった!」

「おう!」



「………」

「……」





…そういえばこの子、何しにここに来たんだっけ。





「ねえ赤也、なんか用事でもあった?」





私がそう聞くと、赤也は少し困ったような顔をした。





「や?別に何もねーけど。ないと来ちゃダメ?」

「い…いや…そういう訳じゃ…」




最近結構こういうことが多い。

ついこの間まではツンツンで、
私が頭なでたりしたら「触んなよ!」とか言って怒ったりしてたのに。

この頃じゃ「寝癖ヒドいからどうにかして」って、
朝練前に髪直してもらいに来るぐらい。

一体赤也の身に何があったんだろう。




「赤也、変わったよねー」

「あー?何が」




ぶっきらぼうな口調の割に表情は穏やか。
さっき触ってたネコのぬいぐるみを、今度は膝の上に乗せて撫でていた。

よっぽど気に入ったみたい。





「だって前は私が話しかけてもほとんど無視だったし」

「そ…そうだっけ?」





私が近づいて顔を覗き込むと、赤也はばつが悪そうに目を逸らした。




「そうだよ。ほんの2、3週間前までもーバリバリの反抗期だった。あれはコミュニケーションに困ったよね本当ー」

「…あ」

「ん。なんか思い当たる節でもあるの?」

「いや…2、3週間前っつったらアレだろ」

「え?」





全然思い付かない。
あ、ちょっと体重が増えた時期だったかな?
「太った姉ちゃんなんか嫌いだ!!」みたいな心境だったのかしらん?





「…お前が変な奴と付き合ってた時」

「ぅえ?…あ…ああ!!」





って、
そういえばそうだった。

あの時は、家に連れてきて赤也にも紹介した彼氏がいたんだ。

ま、その1週間後ぐらいに向こうの浮気が発覚して即別れたし、
過去の男は振り返らない主義なのですっかり…




「ああ!!って…マジで忘れてたのかよ…」

「あ、ハイ…綺麗さっぱり。んで?なんで赤也が素っ気なかったのが私に彼氏がいた時期なの?」

「そりゃあ…」

「そりゃあ?」




「他の男とあんな事やこんな事してるクセに、俺にも馴れ馴れしいなんてムカつくじゃん」




そう赤也は言い、上目遣いに膨れっ面を決めました。





「………」





なんじゃそれ!
どこの片想い男子の言い分だ!




「…あんたもしかして私と禁断の恋に落ちるつもr」

「ちっ…ちげーよ!!そうじゃなくて!!俺はただ弟として、里奈にはもうちょっとマシな男と幸せになってほしいっつーか…」





おおお。
バカで名高いこの子から姉を気遣う真っ当な思想が飛び出るとは。

感心だわ!




「…そっか。ありがと、赤也」




私は相変わらずクセの強い赤也の髪をくしゃくしゃと掻き回した。





「ちょ、やめろって!!」





言いながらへへっと笑う君。
つられて私も笑った。

多感で刺激に弱いこの年頃の姉弟がこんなふうに仲良くいられることは、
当たり前のようできっと難しい。











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