My loving mates | ナノ





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「チョコレートがなんぼのモンやねん」




と、ふて腐れたように言ってみる。
途端に胸の奥がキュンと痛くなった。

それでも俺は言葉を続ける。




「別にそんなんわざわざ貰わんでも、自分で好きなときに買うて食いたいときに食ったらええやないか」

「おかしいやろ。毎年毎年、世の男どもは何をそんな菓子1つで一喜一憂しとるんや?」

「女子も女子やで、本命やら義理やら人情やらいちいち分けて配り回るなんて時間の無駄や!あんな糖分のかたまりにそない価値の差あるかいな!」




そこまでノンブレスでまくし立てると、いくらか気分が楽になった。
だけど、




「……っ」




心の痛みはさっきより増す。
俺は左胸にそっと手を当てた。

…ホンマは知ってる。

チョコレートは。
今日この日にあの子から贈ってもらうチョコレートは、
ただの砂糖菓子なんかやないこと。

そんなんよりもっと甘美で、
もっと愛しくて切ないモンなんやってこと。

それは俺の中で特別エクスタシーな意味を持った、
世界でたった1つの愛の形やった。

俺は他の誰でもなく…
ああ。

たった1つ、君からのチョコレートが欲しい。

それさえあれば…
と、その時。




「…やかましわあああああ!!」

「うおぉっ!!」




スパーン!

小気味のいい音と共に後頭部にそこそこの衝撃が走り、
俺は勢い余って前のめりに転倒した。




「く…相変わらずええツッコミしとるやないか…間の取り方抜群やで、自分」




そう呟いてからゆっくり身体を起こしてみると。
背後には、
ハリセンを持った謙也が怒り笑いみたいな表情で立ち尽くしていた。




「あ?部内で1番貰っとるチョコの数多いヤツが何やねんその白々しいセリフとナレーション。嫌味か?お前より貰った数12個も少ない俺に対する嫌味なんかそれは?」

「…アホか。んなわけ」




ないに決まっとるやろ。
と言おうとしたら、今度は俺の目の前に財前が立ちはだかる。




「心臓に手当てて切なぶる小芝居とかホンマキモいっすわ。好きな女子からのたった1個で満足なんやったら、それ以外に貰った99個の義理チョコなんか突っ返してきたらええんとちゃいます?」




ま、中には部長だけが義理やー思てるだけでそうやないマジチョコが何個あるんかは知らんけど。
眉間に深いシワを寄せたその後輩は、
気のせいかいつもの2割増しでガラが悪かった。

いやいや財前、そら有り得へんわ。
みんなはきっと厚意でくれとるだけやで?

しかし…そう。
俺が今こんなにも憂えているのは、
ある1人の女の子からのチョコレートをまだ受け取れていないから。

それは俺が恋愛感情を抱いてる子で、
多分向こうも俺のことは気になっとるはずなんやけど…

おかしい。
もうすぐ部活が終わってまう時間やのに、
何でまだ渡しに来てくれへんのやろか。




「困ったな…どんだけ必死に考えても、この俺があの子からチョコ貰えへん理由が思い浮かばんわ…」

「なー財前今日のコイツマジで何なん。何でこないに腹立つん。もっかいどついていい?」

「ケンヤ先輩の好きにしたらええと思いますよ。俺は止めへんわ」

「よっしゃほな白石!頭こっち向けて歯ぁ食いしばれ!!」




俺の溜息まじりの独り言になぜかキレ出した謙也が、
再びハリセンを構えた時だった。




「…遅なってごめん!蔵いる!?」




突然ガチャリと部室のドアが開き、
ついに待ち侘びた展開が訪れることに。




「おっ…おるおる!ここにおるで!!」




ぱあっと顔を輝かせて手を振ると、




「あーよかった!はいっ、これ!ハッピーバレンタイン!!」




部屋の中に入ってきた彼女――俺にとっての本命であるその女の子は、
いつにもまして可憐な笑顔でそう言った。

それを見て思わず。




「…おおきにっ!!」

「ひゃ…ひゃーっ!?」




その砂糖菓子が"Love(本命)"かも確かめず、

(俺は君に抱きついて)
(大きな声で愛を叫んだ。)





してその返答は?




「…うわ最悪や!絶対白石が自意識過剰なだけやと思ってたのに、マジでこいつら両想いやったああ!!」

「蔵大好きー!」

「よっしゃああ!バレンタイン最高やあああ!!」

「公害やわ…」




〜END〜






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