絶対温感 (1/2)
「微温い」
「んあ?」
「…微温いわ」
さっき練習を終えたばかりの某テニス部員に、
突然その部室へと連れ込まれて。
「…んな低音でそんなこと言うなってー。真田抱いてるみたいな気分になるだろぃ」
「……」
汗に濡れた男臭い身体で抱き着かれたまま、
全く身動きが取れない。
そんなあたしが示す体感不快度数。
「あんたの体温、微温くて気持ち悪い」
100を限度としたそれは今、確実に100を超えているだろう。
「…何ソレ」
丸井はあたしの背中に回した手をどかそうとはせず、
ただくつくつと喉の奥を鳴らした。
乾いた笑い声が吐き出された熱い息と同時に、あたしの耳をかすめる。
寒気がした。
「…いつまであたしをこうしてるつもりなの」
「俺の気が済むまで」
「その気はいつ済むのよ」
「さーな」
「……」
痛いぐらいの強い力で押さえつけてくる。
そのクセにこの身体拘束はとてつもなく甘かった。
そう。
こいつは甘い。
全てが甘ったるくて微温くて、不快なのだ。
故に嫌いだった。
大っ、嫌いだった。
だけどあたしの気持ちを知ってか知らずか、そいつは喋る。
「そうだ、…じゃあアレだ。こないだみたいに、息が続かなくなるまでキスしてさ」
「は」
「息が続かなくなるまで2度と、俺の唇離さないでいてくれたら」
「…は?」
今お前から離さないでいるこの両腕、解放してやるよ。
そう言って、またあたしの耳元でくくっと笑ってみせるのだ。
表情なんて見なくても分かる。
どうせあの…最低美顔。
「嫌いだって言ってるでしょ…あんたのこと」
「嘘つくなって、あんなに無我夢中で応えてたくせに。その可愛い口が、俺のこの口にさ」
「…黙ってよ」
その時ふいに、そいつはあたしにかける腕の力を強めた。
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