アメトムチ (4/5)
「優里!どうした、優里っ!!」
スーパーマンさながらの勢いで現場に飛び込むと、
「…?」
「ああっ雅治!よかった来てくれたー!ありがとー…!!」
「…優里?」
俺は姉貴とその隣にいた若い男を見比べて、驚いた。
「まさか…隣にいるのって」
「…うん、そう」
「ああ、久しぶりだな雅治。俺のこと憶えてるか?」
「……ども…」
それは以前優里が付き合っていた奴。
順番で言うとこないだのハヤトの前の前の前の彼氏である、タカヒr
「リュウヤだ。お前、相変わらず優里に似て整った面してんな」
「はい…もちろん憶えてます」
…リュウヤだった。
*
話によると、社会人である彼は今この宝石店で働いているらしい。
さっき現れて無理な値切りを強いてきた迷惑な客が、
たまたま去年別れた元カノの優里だったという。
「…そんで俺こいつに、それ値切るより先に前貸した3万返してくれよって言ったんだ」
「おい、優里…」
「ち、違うの雅治!あたし悪くないの!それでね…」
「そしたらこいつ逆ギレしてさ。あげく助けて雅治ー!とか叫び出すから店ん中で大声出すなって注意してたら、」
「……」
俺が颯爽と登場しましたってか。
…下らない。
馬鹿馬鹿しい。
恥ずかしいにもほどがあるとんでもないオチだった。
「…さて姉貴」
「や、だから雅治違うの!3万なんてその分いっぱい愛情注いでちゃーんとお返ししたし、値切るって言っても2万のネックレスをに、にせんえんとかそのくらいで……ひゃっ!!」
「おまんが今するべきことを3つ挙げてみんしゃい」
俺は優里の首根っこを掴んでリュウヤの前に献上し、
出来る限り恐い声色でそう言った。
肩をびくびく震わせながらも、精いっぱいごまかして甘えようとしてくるそいつ。
「ま…まーくん顔も声も怖いよーっ?き…きゃーっ」
「そんな取ってつけたような猫、この場で被って通用すると思っとるんか?」
「ひっ!……ご、ごめんなさい…」
ふっと顔を上げると、リュウヤが呆気に取られたように俺を見ていた。
…どうじゃ。
俺だって常にこいつの尻に敷かれてる、可哀そうな弟ってわけじゃないぜよ?
たまには躾も必要じゃきにのう。
お前さんはこの外見の良さに弱くて飴しか与えてこんかったから、
そうやって金だけ取られて逃げられるナリ。
…というようなことを今、冷たい視線と小さな微笑だけで訴えかけてみたが。
果たしてどうにか伝わっただろうか。
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