アメトムチ (3/5)
「あっ、ねえ雅治!あれ見て!」
「見ん。なあ優里、もうそろそろ帰る時間じゃろ?」
「まだよ。あと4軒、死んでも寄らなきゃいけない店があるんだから」
「なら寄らずに帰って2人で楽になるぜよ。それが賢明ナリ」
「何バカなこと言ってるの?ほら、いいからさっさとついて来て!」
…ここまではいつも通り。
優里の好きな――服靴バッグ財布に化粧品、ケーキCDインテリア雑貨に果ては下着の専門店まで徹底的に見つくしてバカ買い。
俺はその全てに付き添い、全ての荷物持ちを引き受けるだけ。
初めのうちはあからさまに駄々漏らしていた文句も、
彼女には一切通用していなかったことを学んだからだ。
それにしてもこんなに情けないところ、
「…ブン太たちに見られたらそれこそ死ぬぜよ」
「何か言ったー?」
「いーや別に。早く買って来んしゃい、俺はここで待ってるきに」
「はーい!」
相変わらずご機嫌そうに手を振って、大きな建物の中へと入っていった優里。
今度もまた高級そうな、時計かアクセサリーかなんかの店。
「…よう買うのう」
俺は大量の荷物と共に近くのベンチへ腰を下ろした。
俺もいつか彼女が出来たら、
こんな高いところで何かを買ってやらなければならないのだろうか。
甘い声でおねだりされてまんまと乗せられても、
その可愛さに免じて「まーいいか」なんて軽々しく財布を開いてしまうような男になるのだろうか。
「それは絶対御免じゃな」
ただしこんな。
見返りなんて1つもない姉貴の買い物に従順についていくようでは、
今の自分も大概だと気づくのに数十秒かかった。
「……」
そんな時。
「きゃああああああ雅治ううう!!」
「…おい、こんなとこでデカい声出すなって!!」
突然店の中から、優里の甲高い声と聞き覚えのない男の声が聞こえてきた。
一体何事だ。
優里の身に危険でも迫ったのだろうか。
俺は一瞬不安になったが、
以前にもこんなことがあったのを思い出して駆けつけるのをやめた。
どうせまた「きゃああああ雅治見てこの時計!超可愛いんだけど!あたしコレ欲しいんだけど!買って買ってー!!」とかじゃろ…
と思って。
でも、今回は違ったようだった。
「もうっ…やめてよ!あんたなんか知らないっつーの!!」
「ふざけんな!こっちは今までどんな思いでお前のこと探してたか知ってんのか!!」
「いやぁ、放して!助けて雅治ーーーっ!!」
「……優里?」
俺はその声を聞いて立ち上がった。
それから、
「…っ優里!!」
結局情けないことに、めちゃくちゃ血相変えて。
それらの声がする方へ一目散に走っていってしまうのだった。
どうやらしばらくは彼女ができないどころか、
姉貴と少しでも離れてたらいても経ってもいられないらしいぜよ…俺。
ったく、この先どうするつもりなんじゃろうな。
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