夏の夜の夢 (8/8)
「そろそろ帰ろうか」
燃え尽きた花火の残骸をみんなで片付け終わると、幸村が言った。
「そうですね。明日から登校ですし、あまり遅い時間まで夜遊びも良くないでしょう」
「夜遊び」
紳士の口から出た思わぬワードを仁王が復唱して小さく笑う。
君はそういうの茶化すの本当に好きだよね。
言った柳生がすぐに"しまった"って顔しちゃってかわいそう。
でもそんな微妙なやりとり全く気にしない赤也は、
「ハイ!俺帰りはマネチャリ乗りたいっス!!」
元気よく手を挙げて話題を切り替えた。
「花凜先輩、向かい風に気をつけてしっかりつかまっててくださいね!俺に!!」
カッコよくポーズを決めてみせた彼だけど、
「嫌だ」
「!?」
私はバッサリ切り捨てた。
だって赤也が風上にいると、
なびいた髪から磯のかほりがプンプンしてきそうなんだもの。
酔いそう。
それに、
「…私、帰りも幸村と2人乗りがいいな」
なんとなく、ね。
さっき居心地がよかったから。
そう言ったあとちらっと幸村を見ると、優しく微笑んでくれた。
「花凜がそう言ってくれるのなら、俺は大歓迎だよ」
「キャッ!」
「…ちぇ、つまんねーの」
「もういいってほっとけ。俺ら先出発しよーぜ」
「ああ、そうだな」
私たちが自転車にまたがる前に走り出したみんな。
…その7つのけだるそうな背中は、
長いこと続いた猛暑日のランニング風景によく似ていて。
「さぁ、お乗りくださいお嬢様」
「はーい」
この夏のいろんな出来事が一気に思い出せる、
とってもいい眺めだった。
ねえ。
明日から月が変わって秋が来ても、
冬が来て春が来て卒業式が来ても。
約束するよ、今日のこの夢みたいな時間。
私、絶対忘れないから。
〜END〜
「って何本当に後ろ座ってんの?今度ペダル漕ぐのは花凜に決まってるだろ。ホラ、さっさと動き出して」
「あ…あれ?…でっ、ですよねーはぁあい!!」[ 28/33 ]
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