「息してるか」

首を絞めている本人にそんな事をいけしゃあしゃあと言われたところで返答など出来ないと俺は主張しよう。視界すら曖昧にぼやけてきたけど何を言ってるんだお前はというつもりで睨んでみた。そうしたらただでさえ鋭く目付きの悪い切れ長で悔しいけどかっこいい目を更に細められてしまって全身が震え上がった。色んな意味で。性的な意味ではないと思いたい。なんてボケてる余裕があるからきっとまだ大丈夫だと思ってみるけど正直全然大丈夫じゃない。だから、いい加減その手を緩めてくれないか、そう声に出そうとしたけど喉から出たのは掠れた吐息以下の何かだった。

「...えっろ」

小さくそう呟いたバンギラスの目が明らかに熱っぽくて背筋がぞくぞくしていないしたわけがない。...百歩譲ってしたとしてもむしろあんな、獣のような捕食者のような目に捕らえられてしまえばどこに逃げられるというのか教えて欲しい是非。そうこう考えているうちにただでさえ霞んでいた視界がいよいよ暗転しそうだ。むしろ気絶出来ればどんなにいい事か。

「飛んでんじゃねえよ」
「...っは、げほっ...おえっ」

やっと解放された喉が酸素を求めて急稼働。思いっきり咳き込んで生きている再確認をするのもこれが初めてではなくて慣れてしまったのだけど正直こんな事に慣れたくはなかった。それに少し酸素を取り入れただけでは視界は回復なんてしなくて未だに霞んだままだ。そうして必死に呼吸をしていればいきなり俺の左腕を襲った激痛にまた息が止まった。

「てっめ...バン、ギラス...そっち、利き腕...」
「...あ、悪ィやっちまった」

涼しげで反省の色もない謝罪に頭が痛くなる。どうにも俺のバンギラスは、俺に暴力を振るうのが好きらしい。冒頭の首絞めを筆頭に腕やら脚やらの骨を折られるのも日常茶飯事、噛み付かれるなんて呼吸に等しい。なんというのか、異常性癖とでもいうのだろうか。俺の苦痛に歪む顔に興奮するだとか素で言ってくるこいつには最早何を言っても無駄なのかと諦めかけているものの生活に支障を来すレベルの暴力はいい加減控えて欲しい。

「もう、やめろ、駄目」
「犯したい」
「ちょっと...黙れ。離れろ」

まだ動く右腕でバンギラスの体を必死に押し返す。正直力で敵うとは思っていないがこれだけ力を入れて体を捻れば多少の意思表示にはなると知っている。その証拠にバンギラスは思いっきり不服そうに、いかにも渋々、といった呈で押し倒そうとしてくる力を抜いた。相変わらず距離は変わらず近いままだがこの際そんな事は些事だ。

「いい加減生活に支障出るレベルの怪我はしたくない」
「俺だってお前に不便させたくてやってるわけじゃねえよ」

俺から嫌々離れたせいで(距離は離れていないと俺は思う)不機嫌そうだったバンギラスの表情が歪む。表情歪めたいのは俺の方だ馬鹿野郎めと言っていいだろうかその権利はあると思うと主張したい。ひとつ溜息を吐けばどこか俺に縋るような視線を向けてきてもう一つ溜息が出そうになった。分かってはいてもやってられない。バンギラスからの愛が痛い。何て俺は上手い事言ってるんだなんてとぼけてる場合じゃなく物理的に痛い。俺は別に痛いの好きじゃねえんだノーマルなんだ痛いのが気持ちいいなんて境地には達せないんだよ本当に。

「せめて五体満足でいさせてくれよ頼むから」
「仕方ないだろ、泣かせたい。滅茶苦茶にしたい。殺したいくらいアッシュが好きだ」
「...そういう事言うのやめてくんね」
「やめねえよアッシュ好きだ愛してる」

ああくそこれだから強く拒否出来ねえんじゃねえかよくそったれが。本当俺もう感覚麻痺してるんじゃないかってくらい何だかんだ言って結局バンギラスの暴力を受け入れてる自分がいい加減にはっきりしなくて吐き気がするっていうのに。







(既に出ている答えを邪魔するのは、幾ばくかの羞恥心








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