minor | ナノ







「遊矢君と柚子さぁ、絶対付き合ってるよねぇ」
「え、うそ」
「嘘じゃないって。私柚子に聞いたし」
「あ、そん時私もいたー」
「えっ、えっ」
「柚子めっちゃ否定してたけど、あのカンジはもうクロよ、クロ」
「いいよねー、幼なじみ」
「本当にね。特に遊矢君なんて顔もそこそこ良いし、優しいし、」
「この前チャンピオンに勝ったしねぇ」
「あー、柚子が羨ましいー」
「私も幼なじみ欲しーい」
「ねー…って、アレ?#名前1#?どうしたの?」
「おーい、しっかりしろー」
「…お、」
「お?」


終わった…私の恋…。








「#名前1#姉ちゃんどうしたの?」
「……」

チビッコに肩をぺしぺし叩かれても、顔を上げる気が全く起きない。現在地、遊勝塾。サロンの椅子に座ってうなたれる私はさながら明日のジョーだ。燃え尽きてんだよ、真っ白に。

「#名前1#姉ちゃん決闘しようよ、決闘!そしたら元気出るって!」
「…決闘……」

決闘。そう。決闘だ。そもそも何で私がこんな所に居るのかっていうと、ひとえに惚れた弱みなわけだ。

簡単に言うと、私は長いこと榊遊矢君に片想いしていたのだ。きっと彼は覚えていないだろうが、小学校の時から同じクラスだったのだ。幼い頃。まだ私が彼より少しだけ背が高かった頃。初めは一目惚れで、たまに話し掛けるのが私の最大の勇気。泣いてる榊君を何度か慰めたこともある。でも結局特別仲良くはなれずにフェードアウト。私は途中で転校し、初恋は思い出になった。はすが、中学生になって背が伸びた榊君と遭遇して最高にビビることとなる。しかもただのクラスメートCである私が落ち込んでる所を声掛けて慰めて笑わせようとしてくれたとかもう惚れ直すしかないよね。くっそう。何だかんだでそこそこ仲良くなって、あれやこれやと絆された結果榊君と同じ決闘塾に通うとか私って本当バカ。だいたいあんなに可愛い女の子が身近にいるのに私にチャンスなんてあるわけなかったじゃないか。身の程を弁えてればこんな想いはしなかったのよ。ちくしょう。

「…もう塾辞めたい」
「えええ!駄目だよ!」
「そのくらい落ち込んでるの…そっとしておいて…」
「#名前1#姉ちゃんどうしてそんなに落ち込んでるの?」
「失恋したんだよ。もうほっといてくれよマジで」
「えええ!#名前1#姉ちゃん失恋したのー!?」

声デカいわ馬鹿チビ。



「……と、いうわけで今日で塾辞めます。短い間でしたがお世話になりました」
「なっ、ななな何故?!」

考え直せ!と縋ってくる修造センセイを引きずりながら出口へと向かう。放してください私これから美容院行って髪の毛切るんですよ。その言葉に今度は、成り行きを見守っていたはずのチビッコ達が騒ぎ出す。

「ええーっ?!#名前1#姉ちゃん髪切っちゃうの!?」
「わかった!シツレンしたから髪切るんだ!」
「何ぃ!?#名前1#ちゃん、失恋したのか?!だ、だから塾を辞めるのか!?」
「はいはいそうですよ。そういうことなので本当にもう勘弁してください」

失礼とは思いつついいかげん鬱陶しくなって修造センセイを振り払う。入れ替わりに私の腰にぶら下がってヤダヤダ騒ぐチビッコ達を引きずりながら出口へと向かうと、前方に誰かが立ちふさがった。

榊君だ。

しかも何故かゴーグルを装着している。何故だ。いや、そんな榊君もカッコいいんだけど。ゴーグルで目元が見えないのに加えて俯き加減なせいか、榊君の表情が分からない。少なくとも、元気いっぱいというわけではなさそうだ。そういえば今日は私が塾に来た時にはすでに、サロンのソファー…私が昨日燃え尽きていた場所で、彼が頭を抱えてうなだれているのを見た気がする。

いや、だがしかし私には関係ない。何かあったならきっと彼女である柊さんが慰めることだろう。

チビッコ達が次々に榊君の名前を呼ぶ。一体何の用だろうか。もしかして、引き留めてくれたりするんだろうか。なんて、夢見ちゃったりね。相変わらず学習しない自分の思考回路に溜め息をつく。榊君が、ゴーグルを外して顔を上げた。

「#名字1#さん、オレと決闘して」
「…は、」
「決闘して、オレが勝ったら…」
「か…勝ったら…?」

榊君は一度口を噤み、深呼吸をしてから私の目をまっすぐ見た。

「#名字1#さんが、好きだったヤツの名前を教えて欲しい」
「おっ、?!」

お前だよ馬鹿!とは死んでも言えなかった。