私は昔から影が薄いらしい。
理由はよく分からない。

一度イルカ先生に相談してみたところ、気配を消すのが私の癖になってしまってるんじゃないか、と言われた。

なんてこった。



●雑魚忍者





「よし、この作戦でいこう。」
「まじで?」
「まじで。」

コウキ君は頷くと、自信満々にハツ君の頭に手を置いた。

「名付けて、『貞子作戦』だ。」
「要するに俺とコウキで全力で注意を引いてその間に#名前1#が紐を奪うだけだけどな。」
「ヤバいいきなり失敗する気配が漂ってるぞこれ。」
「ダメだったらそん時は三人一緒にアカデミーだぞ。」
「イルカ先生ごめんなさい。」
「お前らちょっとは僕(の作戦)を信用しろよ!」

そうやってきゃいきゃい言い合ってる中で、ふとハツ君が動きを止めた。

「来たっぽい。」
「よし、じゃあ作戦開始だ。」
「了解。」

私はひとつ頷くと、自分の気配を意識するのを、やめた。






「あ、オッサン。」

開けた場所をテクテクと歩いていた先生の前に、コウキ君が立つ。オッサンと呼ばれたその人は、コウキ君を見て目を開いた。

「なんだお前何処に居たんだよ!だれも来ないからオジサン寂しくて探しに来ちゃったよ!」
「あの、オッサンって強いんですか?」
「無視とか!」

オジサン泣いちゃう!と泣き真似をするオッサンをスルーして、コウキ君は「どうなんですか?」と首を傾げる。
オッサンはピタリと泣き真似を止めて、口角を上げる。

「まぁまぁ強いんじゃない?」


「へぇ…。」
「聞いといて反応薄い!」
「じゃあ僕らに勝ち目ないんで戦うのは止めにします。」
「は?!」

ポカンとするオッサンに向かって、コウキ君は肩をすくめる。

「だって僕ら弱いですもん。勝てない相手に刃向かっても意味ないですし。」
「ちょ、待て待て!早まるな!いいか?あくまでこれは『演習』なんだぞ?勝ち負けじゃなくて頑張ることに意味があるんだ!下忍になりたいんだろ?」
「あばよ、オッサン!」
「コラ待て!話聞け!」

ダッシュで走り去るコウキ君を追って、オッサンも森の中へ消えていく。私も慌ててその背中を追った。

薄暗い木々の間を縫うように走る。どうでもいいけどコウキ君足早いな。オッサンだって仮にも上忍(なはず)なのに、普通に逃げてるし。
ちなみに私はわりと限界だ。
もう疲れた。帰りたい。
そのとき、コウキ君の絶叫が聞こえた。

「うわああああ!」

やっとのことで追いつくと、そこにはホラーな空間が広がっていた。

座り込んだコウキ君の側の地面に開いた不自然な穴。何故か真っ黒な穴の中は、ざわざわと蠢いている。穴から溢れて徐々に範囲を広げる何かは、真っ黒な髪の毛だった。喉に引っかかるような独特の呻き声。


これは怖い。
ちびりそうだ。
ハツ君気合い入れ過ぎだろ。


オッサンもそこに立ち尽くしたままその光景をじっと眺めている。もしかしたらチャンスかもしれない。
私はそっと背後に近付き、オッサンの腰元に手を伸ばす。
そして紐を掴もうとした瞬間、


「あ゛あ゛あああ!」


穴から這い出た真っ白な腕が、地面を引っ掻いた。


「ぎゃあああああああ!!!!」


オッサン大絶叫。
脱兎の如く逃げ出したオッサンを、穴から出てきたハツ君が追いかける。
キラリと光っていたのは涙だろう。
それでいいのか、上忍。

ていうかハツ君四つん這いなのになんで全力疾走してる上忍に着いていけてるんですか怖すぎる。

そして紐を奪い損ねた私は再びオッサンを追いかけた。




「待でえ゛え゛ぇぇえ!!!!」
「いいいいい!!!!」

ハツ君の貞子ごっこにかける情熱が垣間見えた瞬間だった。














「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -