幸村精市がお姉ちゃんとやり直す


(30万打フリリク 豆鳩さんのみ持ち帰り可です)






ぐしゃり


ああ、これで何度目だろうか。白い枠で切り取られた青色に、彼女の姿が消えていく。いくら手を伸ばしても、ベッドに縫いつけられたように俺の身体は動かない。


ぐしゃり


ぐしゃり


ごめんなさい、神様。何でもするから、あの日をなくしてほしい。あの日より前に時間を戻して、もう一度やり直したい。そしたら#名前1#を…姉さんを死なせたり、しない。


ぐしゃり





ぐしゃりぐしゃりぐしゃりぐしゃりぐしゃりぐしゃりぐしゃりぐしゃりぐしゃりぐしゃりぐしゃりぐしゃり


やわらかいものがかたいものにたたきつけられてつぶれるおとがずっとずっとおわらなくてなんどもなんどもめのまえをとおりすぎていくねえさんのすがたがまっかにまっくろにまっしろになっていくてんてきをたおしてべっどからころげおちてはいずるようにまどきわにいってまどのしたをみるとまどのしたをまど まどまどまどまど あかい はながあかい、あか


赤い華が咲いてた







「―――…ち、…精市」


「…#名前1#……?」



目を開けると、そこには#名前1#がいた。霞む視界の向こうに、アホ面してるいつもの#名前1#がいた。思わず手を伸ばして彼女の肩あたりをど突く。確かな感触が、そこにあった。


「うぐ…っ、朝っぱらから何て挨拶なんだ精市君…」

「…触れた……生きてる…?今までのは……全部、夢?」

「無視?なんなの?折角遅刻しないように起こしにきてあげたのに。もう知らん」


#名前1#が俺に背を向ける。途端ざわりと恐怖が蘇ってきた。


「行かないで!」

「うわ?!」


服を掴んで引き留める。呻き声が聞こえたけど無視だ。ぎゅうっと抱き付くと、ものすごく抵抗された。振り払われて、ハッとする。#名前1#が酷く困惑したような目で俺を見下ろしていた。


「…や、止めてよ。なんなの?」


バタバタと階段を降りていく音を聞きながら、ぼうっとカレンダーを見る。記されていたのは俺が倒れる、一年前。


「…#名前1#……いや、ねえさん」


もう二度と、死なせはしないよ。










しかしそう決意したところで俺は早速躓いた。姉さんにどう接したらいいか分からないのだ。それでも、諦めるわけにはいかない。期限は一年しかないのだから。

まず手始めに、目一杯姉さんに優しくするようにした。反射的に出そうになる暴言をぐっと飲み込む。意識するとどうだろう、自分が今までどれだか酷い言葉を投げつけていたのかが改めて分かる。激しい自己嫌悪に苛まれながらも必死に姉さんとの距離を近付けようと努力した。そうしたら、最初は物凄く警戒されていたけれど、次第に姉さんからの態度も変わってきたのだ。誕生日に姉さんが欲しがっていた物をあげたら、お返しとばかりに俺にもプレゼントをくれた。それがずっと俺が欲しかったものだったから、驚いて、嬉しくて、笑いが止まらなかった。


姉さん。#名前1#姉さん。


やがて、タイムリミットが来て俺は倒れた。前はいなかった姉さんが、今回は心配そうに寄り添ってくれている。不器用に、それでも俺のために出来ることを探そうとしてくれる。姉さんは、こんなに優しくてあったかい人だったんだね。今まで触れたことのなかった姉さんの手を、握ってみる。柔らかくて、こんなにも小さい。


「精市…」

「姉さん、大丈夫だよ」


身体が弱っていく感覚は恐ろしいけれど、手術を受けてリハビリをしっかりやれば治ることを俺は知っている。姉さんに笑いかけると、姉さんはぎこちなく笑い返してくれた。

これで大丈夫。姉さんは死なない。


やっと心が軽くなった。
















「どうしてよ?!どうして精市が死ななきゃいけないの?!」

廊下から母さんの声が聞こえた。まだ死ぬと決まったわけじゃない、と父さんが宥めているみたいだけど、母さんはどんどんヒートアップしていく。病院の中であるにもかかわらず、泣き叫ぶように言う。

「どうして精市なの…!なんで#名前1#じゃないのよ…!」

「「!」」

「#名前1#が死ねばいいじゃない…!」

父さんが、母さんの名前を強く呼んだ。今、母さんは何て言った?手の中からスルリと温もりが消える。ハッとして#名前1#を見る。#名前1#はジッと扉の方を見ていたけれど、やがて静かに立ち上がった。

「…ね、姉さん?」

「……あ、は」


姉さんがへらりと笑った。そのまま、窓際へと歩み寄っていく。ああ、待って。いかないで。姉さん、だって、俺、もう姉さんのことが好きなんだよ。やめて、待って、行かないで行かないで行かないで。



ふわり。
白い枠に切り取られた青の中に、姉さんの黒髪が消えていく。手を伸ばすことも、呼び止めることも出来なかった。


「は…あ……は、あは…」


熱い何かが、頬に零れていく。


「あ……、あ、…ねえさ…」


もう二度と死なせないって思ったのに。誓ったのに。



「う゛…あ゛あ゛あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」




嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして!!!???胸の底から母さん達に対する憎悪が溢れてくる姉さんが姉さんが姉さんが姉さんが姉さんが姉さんが姉さんが姉さんがががががが


神様お願いですどうかもう一度だけ

















「精市、起きて。朝だよ」