龍亞と一緒に逃亡






深夜の二時過ぎ。
ライダースーツを着込み、バイクに荷物を積み込んでいると、背後で誰かが動く気配がした。


「…誰?」
「…ねぇ、ちゃん?」


眠そうな幼い声に安堵する。龍亞だ。手にしていたヘルメットを置き振り返ると、パジャマ姿の龍亞がそこに居た。


「どうしたの?眠れない?」
「姉ちゃん…何してんの?」
「……」


口を噤む。龍亞は何かを察したのか、小さな声で、いやだと呟いた。


「おいてかないで」
「でもここにはもう居れない」
「どうして」
「…もう遊星達にはついていけないし、ついていく理由もないから」


私シグナーじゃないしね、と笑えば、龍亞は「じゃあさ、」と俯いた。



「オレも連れてってよ」



「オレも、シグナーじゃないし」



「#名前1#姉ちゃんがいなくなったら、どうしたらいいかわかんねえし」



無理に笑おうとして引きつった頬に、ぽたりと水滴が落ちる。パジャマの袖で目元を拭う龍亞の姿は年相応に酷く小さく見えた。いつも一緒にいる仲間の中で、一人だけ何かを持っていないというのが、どれだけストレスになっているんだろう。自分だけ選ばれなかった、というやり場のない悔しさを、龍亞もきっと感じている。


その姿が、誰かの影と重なった。



「…荷物、取っておいで」

「えっ、」
「一緒に行くんでしょ?静かに、必要なものだけ取ってきて。早く」
「…っうん!」


龍亞を見送って、予備のヘルメットを取り出す。小さなリュックを持ってすぐに降りてきた龍亞にそれを手渡してバイクに跨がる。背中に、柔らかな温もりがピタリと寄り添う。


「しっかり掴まってね」
「ん」


エンジンを掛けてガレージを飛び出す。その音で起きたのだろうか、誰かの声が私の名を呼ぶのが聞こえた気がした。勿論止まったりするわけがなく、さらにスピードを上げた私の愛車は私達をさっさと遠くまで連れてきてくれた。


「さぁ、どこに行こうか!」


風に負けないように、少し大きめの声で龍亞に呼びかける。龍亞は一拍考えてから、私にしがみつく腕の力を強めて答えた。



「どこだっていいよ」

「じゃあ、うんと遠くまで行こう」


誰にも邪魔されないように。二度とシグナーやごたごたに巻き込まれないくらいに。遠く。遠く。遠く。



遠く。