幸村精市のお姉ちゃん(つづき)



俺が




#名前1#のことを貶すようになったのは何時からだろう。幼い頃の記憶を掘り返しても掘り返しても出てくるのは唯優しく笑う#名前1#の小さな手のひらとぽかぽかした感情だけ。確かにあの頃は純粋に#名前1#が好きだった。姉として慕っていた。じゃあ何時から、俺は#名前1#のことをクズだと思うようになったんだろう。その答えは多分、ない。両親が#名前1#と比較して俺を褒めた瞬間から、何年もの月日をかけて、この仄暗い感情は積み重なっていった。別に#名前1#が嫌いなわけじゃないんだ。ちゃんと家族だって思っていた。ただ、幸村家において#名前1#は悪いことや汚いものの例えとして扱われるのが普通だった。勿論俺も父さんも母さんも、あくまでギャグとしての発言だったし、#名前1#も笑ってたから別に良いんだと思った。そうやって少しずつ、#名前1#を貶すことが当たり前みたいになっていった。そうやってじわじわと、俺の中で#名前1#は虐げる対象として変化していった。そうして、俺は中学生になって、



「あは…っ!」



汚い、馬鹿、死ね。俺達の軽口が、毎日どれだけ#名前1#の心を傷付けていたか想像もできない。考えたこともなかった。薄っぺらい音の羅列に深い意味なんかなかった。#名前1#が俺達からの悪口に笑いながら返事する裏側で、どれだけの憎しみを溜めていたか気付きもしなかった。



「あははははははははは!!!」



ざまあみろ!とあの日の#名前1#が俺を指差して笑う。最後に吐きつけられた憎悪の塊が、俺に纏わりついて離れない。振り切るようにリハビリをして、打ち消すようにテニスをして、身体はどんどん調子を取り戻していくのに、ふとした瞬間に#名前1#が見える。部室の窓の外に、ギャラリーの中に、人混みの中に、試合中だってホラ、相手の肩越しに#名前1#が俺を見つめ続ける。父さんも母さんも最近目に見えてやつれてきた。夜中に#名前1#が夢枕に立って冷たい目で見下ろしてくるって言っていた。ごめん、ごめんと呟いても、#名前1#は笑ってくれない。記憶の中の#名前1#の笑みは、全て憎しみと狂気に塗り潰されていた。真田や柳や赤也達が、俺を心配して声をかけてくる。無理して笑っても、頭の隅がズキズキ痛い。



「せーいちー」



#名前1#が俺を呼ぶ。



「せぇーいちーぃ」



目の前に立つ青学の一年の姿が、揺らいで霞む。ああ、やめてくれ。青空、赤い華、ホイッスルの音、大きな、あれは声か、真田が、ちがうやめろ、#名前1#が俺を、やめてくれ、真っ赤に、白い天井、赤也が叫ぶ、視界から、動かない、手が、足が、動かないよ、ああ、ああああああああああ。





ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ。







「あはは。精市の負けだね。ざまぁみろ。」





俺の顔を覗き込んで、#名前1#が心底楽しそうに笑った。