文化祭以来、たまに本田君とエアガンの話をするようになった。最初話しかけられた時は不良怖いヤバいとしか思えなかったけど、彼は単純に私のオジサン(架空の人物)のコレクションに興味を持ったみたいだった。学校でも趣味の話ができるのはちょっとだけ嬉しい。まあ話す時はあくまでオジサンの受け売りっていう設定で、私自身がミリオタだなんてことは死んでも言えないけどね。さて、そんな本田君が今私の目の前で心底思い詰めた表情をしていらっしゃる。悩みでもあるんですか?興味ないし聞きませんけどね。

「な、なぁ…#名字1#」

と思ったらこれだよ。はいはい、なんですかね。

「あのよ…や、やっぱりなんでもねぇ!」
「……はあ」

ダッシュで走り去る本田君。はあ…?なんなんですかね。ちょっと意味が分からないですね。ポカンとしていたら肩をそっと叩かれた。振り向くとそこにはこの学校で私の数少ない友達(だと私は思っている)である野坂ミホが立っていた。ミホちゃんは図書委員だから、図書室でよく遭遇して次第に話すようになった。男女だったらここからロマンスが始まる。ロマンスの神様この人でしょうか。いいえ、ケフィアです。おっと、一体何馬鹿なことを考えているんだ自分。ミホちゃんが心配そうに私の顔を覗いてくる。

「#名前1#ちゃん、大丈夫?」
「え?ああ、うん。なにが?」
「さっき本田君に何か言われてたでしょ?彼、不良でちょっと怖いし…もしかして何か脅されたりしてたんじゃないかって思って…」
「あー…大丈夫だよ」
「ほんと?」

心配してくれるミホちゃん超可愛い。真崎さんが活発な可愛さならミホちゃんは清楚な可愛さだ。ていうかウチのクラス可愛い子ばっかり。つらぁ。取り敢えず本田君に対するマイナスイメージを少しだけフォローしてあげよう。こんなに可愛い子に怖がられてるとか可哀想だしね。まあ、私もぶっちゃけ怖いと思ってたけど、最近本田君以上にクレイジーな人見つけたからな。

「えっと…私も本田君怖かったけど、意外と優しいよ?」
「そうなの?」
「ウン」
「そっか…そっかぁー。よかったあ。私#名前1#ちゃんに何かあったらどうしようかと」
「あは、ありがとー」
「ううん、私が勝手に心配してただけだから」

天使か。


さて、話は変わって次の日である。私はちょっとお花を摘んでいた。いや、別にメルヘン的な意味じゃないよ?そんな学校でお花畑とかないよ?八つ橋にくるんでるんだよ察してください。まあただトイレなうってだけなんですけどね。さて、じゃあ私は何故態々こんな報告をしているのか。説明しよう。個室から出ようとしたら蝶野先生が悪態吐きながら入ってきて鏡を叩き割った。な、何言ってるか分からねーと思うが以下略。いや、直接見たわけじゃないから何とも言えんが声が蝶野先生だったし、ブツブツ言ってる内容も蝶野先生に当てはまりそうなことだったから多分蝶野先生だと思う。「うるせぇんだよあのハゲ教頭!ヒトの見合いのこと詮索しやがって!!思い出すだけでむかつくわ!!!ボケが!」多分じゃなかった蝶野先生だわこれ。しかもどうやら世の中の男をくそみそに貶して振るのが蝶野先生の最高の楽しみらしい。なんだそれ。怖っ。女怖い。私も一応女だけど女怖いよ。個室に籠もってガクブルしてたらしばらくして蝶野先生は出て行った。恐る恐る個室から出れば、粉々に砕けた鏡。わ、ワアアアア。ていうか個室に誰か入って
るかとか気にならないくらい気が立ってたとかマジ。あ、そういえば次の授業蝶野先生だウワアアアア。こんな時に限って次が蝶野先生の授業とかそんなの絶対おかしいよ!!


自分の席に着いた私は明らかに授業には関係なさそうなゲームやら何やらを慌ててロッカーの奥底に隠した。ヤバいヤバいヤバい。マジヤバいって。宿題とかどうでもいい。いや、良くはないんだけど。何だかめんどくさいことが起きそうな予感がひしひしとしている。無駄に焦っている私を見て隣の席の男子が驚いたような顔をしていた。

「#名字1#?一体どうし…」
ガラッ

扉が開いて、彼は黙った。ツカツカと教卓に歩み寄った蝶野先生が「起立!」と号令をかける。立ち上がった生徒を見回した蝶野先生は、ニッコリと笑みを浮かべて口を開いた。

「さあみなさん!教科書を開く前に…

カバンの中身、机の中のモノを全て机のモノを全て机の上にお出しなさぁぁい!所持品検査よー!!」

うおお!セーフ!超セーフ!クラスメート達が慌てふためく中、私は額の汗を拭った。今日も今日とて学校に不必要なものとか入れまくってたからな。没収されたら堪ったもんじゃない。死ねる。色んな意味で。隣の席の男子が「知ってたのか?」と恨みの籠もった目で見てきたけれど違います。知らなかったです。ただ嫌な予感がしただけです。さて、そんなこんなで所持品検査がスタートしたわけだが。机と机の間を練り歩いてチェックしていた蝶野先生が、ふと立ち止まる気配がした。

「アラ…。これは何?野坂さん」
(えっ)

今までずっと下を向いて無心を決め込んでいたのも忘れて、思わずそっちを振り向いた。だって、あの野坂ミホが、校則に引っかかるものを持っている筈がない。顔を赤くして俯くミホちゃんと、蝶野先生の手にはラッピングされた…箱?

「あ…あの…知りません…気付いたら机の中に……」
「そう…」

蝶野先生はそれを持ったまま教卓まで戻ってくると、何を思ったか豪快にラッピングを毟り取った。えええええ。ラッピングの残骸が床に散らばるのも気にせず箱の中身を教卓の上に出す。おい、誰が後で掃除すると思ってるんだふざけるな。

「アラ…これはジグソーパズルね!」

何でやねん。何でジグソーパズル。でもアレだ。ジグソーパズルが校則に引っかかるとかそんなん聞いたことないから多分大丈夫だろ。と、思っていた時期が私にもありました。あら面白い、とか言いながら何故かパズルを組み始めた蝶野先生曰わく、絵柄じゃなくて文章が出てくるらしい。ほほう。つまりどういうことだってばよ。

「なになに…愛しい愛しいリボンちゃん…きいろいリボンも―――なんて稚拙な文章!!フフ」

あまりにもこう…個性的な文章にクラスメート達が笑う。私は笑ってない。笑いそうになったけどそれより引いた。ていうかミホちゃんがかわいそすぎる。みんな無神経っていうかそれよりまず蝶野先生がとんだクズ野郎だったでござる。

「さて…問題は誰がコレを彼女に渡したかっていうコトね!フフ…校則にもあるわよね!男女の不純な交際は厳しく罰する!と…。このパズルは明らかに不純な男女関係の起爆剤になるのよ!!」

いやならないだろ。明らかに人生の黒歴史にしかならないよ。これは。恋が成就してもしなくても数年後とかに思い出して笑われて爆死したくなるパータンのやつだよ。と、心の中でツッコミを入れる。一方蝶野先生は書いた者は名乗り出なさい!と笑顔を浮かべている。今なら許さないコトもないとか言ってるけど絶対嘘だろお前。

ガタッと誰かが立ち上がる音がした。

「そ…それ、ボクが書きました!」

お前かよ。クラスメート達の笑い声の中、頬を赤くしている武藤君を見て思わず力が抜けそうになる。

「いや!机ン中に入れたのはオレだぜ!センセー」

ふぁっ!?なんということでしょう。城之内君まで立ち上がりやがった。ていうかこの二人出てきた時点でもうめんどくさいことになる予感がヒシヒシとしている罠。

「もういいよ。サンキューな、城之内!遊戯!」

な…何…だと!?

「そのパズルはオレの気持っス、ホント!」

だ、第三勢力が現れた!そして、今私の中で全てが繋がった。ミホちゃんのことが好きな本田君とラブレター代筆の武藤君と実行犯城之内君。成る程意味分からん。男なら正々堂々告白しろっていうか少なくともラブレターくらい自分で書きなさいよ。蝶野先生が誰かウソをついてるワ!なんて言ってるけど残念なことに嘘じゃないんじゃないですかね。こいつらならやりかねませんよ、先生。すると蝶野先生は残った4ピースを組み上げれば差出人の名前が分かると言い出した。流石先生、すごい、よくそこに気付きましたね!でもあと4ピースなら組まなくても普通に読めば早いんじゃないかと思うのは私だけでしょうか。私だけですか。アッハイ。

「その名前がわかった時…その生徒はー退学ーっ!聖職者である教師をダマしたんですもの!当然よね!オホホ―――」

えええええ。何言ってんだこの人。そんな横暴な理由で退学とか馬鹿じゃないの。いや、馬鹿だった。この人頭おかしかった。ていうか最近思ったけどこの学校の教師マジくずばっかだな!禄なのいないじゃん。何なのまじ。

「フフフフ…ひとつめー」

カウントと共にパチリとピースがはめられていく。その行方を、クラス中が見守っている。あぁ、さらば、本田君。君としゃべれてわりと楽しかったよ。君が好きなライフルについて語ってくれたことは決して忘れない。多分。ちら、と彼らの方を窺ってみる。悔しそうに歯を噛み締める城之内君と、目つきを鋭くさせて蝶野先生を睨み付ける武藤く……おいちょっと待て。思わず二度見した。ちょっと待て。何でお前が出てきてるんだクレイジーな方の武藤君。え、何?君何かするの?やばい超帰りたくなってきた。武藤君がふとこっちに目線を向けたので、反射的に前を向く。私は何も見てない。何も見てない。

パチリ。最後のピースがはめられた。

「名前が分かったわぁぁぁ!退学者は本―――」
「……え?」

その時、蝶野先生の顔から何かが剥がれ落ちた。パズルのピースのようなそれはみるみる家に先生の顔中に広がり、教卓に零れ落ちる。そして、中から現れたのは、普段の笑顔からは想像もつかないような凶悪で醜い笑みだった。蝶野先生の邪悪な表情を目の当たりにしたクラスメート達が悲鳴を上げる。そんな非日常的な場面を目の当たりにした私はSANチェックです。失敗。1D4のSAN値喪失。

「見ろ!」
「うわああ!すごい顔だ!」
「ウソー!?」

「ゲッ!!」

本性が暴かれた蝶野先生が慌てて出席簿を抱え上げる。あ、誰か今写メ撮った。

「今日の授業のコトはなかったコトにしましょうねー!」

んな無茶な。

「あんた達も、私の秘密をバラしたらタダじゃおかないわよー!!じゃあねー!」

くそー覚えてやがれー!と見事なまでの捨て台詞を披露して蝶野先生が教室からログアウトしました。さようなら。まるで嵐のようだった。バラすバラさないとか関係なく、これから彼女がどうなるかが気になって仕方ない。それから本田君、退学回避おめでとう。ちら、とそっちを見れば、まるで寝起きのような顔でポカンと首を傾げる武藤君がいた。もうなんだっていいよ。私何も知らない。私は席を立ち掃除用具ロッカーへ向かった。無心だ。無心になれ、私。チリトリで床に散らばった包装紙を回収し、教卓の上のパズルを元々入っていた箱に入れる。。その時文章が目に入ってしまったのだが…

(なになに…?…君を宇宙一愛して…うわあ…)

私はそっと目を逸らして、箱に蓋をした。センスゼロだな、とか思ってないよ。断じて。













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