「おはよう#名字1#さんっ」
「…おはよう、真崎さん」

バーガーワールドの一件以来、真崎さんが妙に親しげに挨拶してくれるようになった。お陰で毎朝目が幸福。こんな根暗女にも声かけてくれる真崎さんマジ美少女。

「おっす、#名字1#」
「おっ、おはよう、#名字1#さん!」
「……おはよう」

だがしかし真崎さんが来ると高確率で城之内君と武藤君が来るのがいただけない。百歩譲って城之内君は良いにしても、武藤君、お前は駄目だ。私の予想だと武藤君は恐らく多重人格だ。普段の気弱そうな武藤君とは反対の、ほぼサイコパス(多分)みたいなヤバい人格…少なくとも穏やかではない人格がある、んだと思う。ていうかそう考えないと私の中で武藤君がガチでヤバい人になる。いや、今でもヤバい人だとは思ってるんだけど。そもそも多重人格とかって精神や身体に負荷がかかりまくった時に自己防衛として出てくるもんなのだが、武藤君、あなた一体誰に何されたの。城之内君に苛められたのがそんなにつらかったのかい?それとも他に事件にでも巻き込まれた?何したらあんな怖い人格生み出せるんだよ。兎に角、そんなめんどくさい人とお近付きになるとか御遠慮させていただきたい。できればそっとしておいて欲しい。私はしがない一般人です。モブだよ、モブ。だから真崎さん以外は帰って、どうぞ。おい止めろ。私の机の周りで会話始めんの止めろ。


「ねぇねぇ知ってる…?A組の狐蔵野君」
「いや、知らねーな。遊戯は知ってるか?」
「うん、最近ちょっとしたブームだよね。でもなんで?」

休み時間、真崎さんの言葉に城之内君と武藤君が首を傾げるのが見えた。狐蔵野君とは他クラスの男子で、超能力があるとか自分で言ってるちょっと…いや、かなりイタい奴のことだ。未来を見通す力(笑)を持っていて、占いもやってるんだとか。それを目当てにして休み時間になると女子がいなくなる。正直本物な気はしないけど、まあ、本人達が楽しければそれで良いんじゃないですかね。

「なに〜超能力少年だぁ〜!?」

と、まあ真崎さんから説明を受けた二人が驚きの声を上げている。興味ないと言う真崎さんに対し、城之内君は占ってもらう!と張り切っている。おい不良。

「行くぜー遊戯!!杏子っー!」
「え…ボ…ボクは〜」
「ちょっと〜」

武藤君と真崎さんの腕を掴んで教室を飛び出して行く。いってらっしゃい。教室が静かになって快適になりますね。その後地震があったりしたが、私はひたすらに本のページを捲って文章を追っていた。ホラー小説面白いです。


「遊戯、そんなに落ち込むなって!あんな予言当たりゃしねーぜ!」

城之内君がそう言って武藤君を励ましている。どうやら狐蔵野君に不吉予言をされたらしい。ざまあ、とか思ってないよ。大丈夫大丈夫。あんなん当たらないから。って言いたいんだけど、噂によれば以前狐蔵野君はクラスメートの家が火事になるのを予言したらしい。またある噂では、その生徒は狐蔵野君の超能力にケチを付けたとかなんとか。なんていうか、彼が偽物だと前提した場合放火犯が一発で分かりますねっていう。そんなわけないだろうと思いつつ、可能性が消しきれない罠。ていうか私は何でこんなに武藤君達を意識してるんだ。アホか。関係ないし。マジ無関係だし。

「#名字1#さん」
「ん?」

声をかけられた。真崎さんに。どうしたの?と聞けば、無数の文字ってなんのことだと思う?だって。

「………なぞなぞ?」
「ううん、狐蔵野君が遊戯にした予言。『無数の文字が降り注ぎ、災いをもたらす』んだって」
「…何で私に?」
「よく本読んでるから、こういうの得意かと思って」

ニコッと笑う真崎さん可愛いです。丁度武藤君と城之内君はいない。トイレにでも行ったんだろう。そんなことより予言の話だ。折角美少女が私を頼ってくれたんだから考えるしかないだろそんなもん。

「無数の文字」
「うん」
「まあ、普通に考えて…本のことじゃないかな。…多分」
「本…。あっ、無数の文字!」
「うん。だから『無数の文字が降り注ぎ』っていうのは、上から本とかプリントの束みたいなものとかが降ってくる…ってことなんじゃないかと…」
「…#名字1#さんすごいっ!その通りよ!きっとそうだわ!」
「いやそんな過信されても…」

真崎さんは遊戯に教えてあげなきゃ!と何処かへ去って行った。後ろ姿を見送ってから、本に視線を戻す。…それにしても、

(無数の文字…ねぇ…)

取り敢えず武藤君は本棚に近付くの止めた方がいいんじゃないかな。


いやあ、先生の手伝いをしていたら遅くなってしまった。普段だったら適当に言い訳して回避するんだけど、数学の先生だからそうもいかない。私数学苦手だからね。ちょっとでも印象良くしないと。ね。こんなん漫画の世界だけだとか思ってたけどそんなことなかった。確かに媚び売り大事。日々の積み重ねが評価を作るのです。いざという時の予防線大事。そんなことを考えながら教室へと向かうと、何やら気味の悪い笑い声が聞こえた。

「ボクに超能力がある限り、どんな女だってボクのモンだー!!永遠に人気者なんだーっ!!」
「えええええ」

ありのまま今起こったことを話すぜ!『放課後の教室で狐蔵野君がぐったりした真崎さんを抱えながら意味不明なことを口走っていた』な…何を言ってるのか分からねーと思うが、私も何を見たのか分からなかった…。頭がどうにかなりそうだった。ていうかこいつの頭がどうかしてる。何。何なのこの状況。何で真崎さんがそんなことになってるんですか。教室の入り口付近に転がってるその瓶はなんですか。

「なっ、お前…!?」
「こ…狐蔵野君…何してるの?真崎さんどうしたの?」
「ええっと真崎さんはそう!疲れて寝てしまったのさ!」
「え、でもさっき超能力がナントカって…」
「聞いてたのか!!ぐぅう…!こうなったらお前もボクの超能力で落としてしまおう!」
「はぁ?!」
「大丈夫…直ぐに夢中になれるから…」

き、キモい!!!不気味な笑みを浮かべた狐蔵野君がジリジリと近付いてくる。気色悪い。くそっ。何なんだよ。真崎さん返せよ変態。だいたいダサいんだよその格好。恥を知れよ。

「フフ…真崎さんと一緒にボクの側近にしてあげるからね」
「い…」

いやだ!
一歩後退った私の背中を、誰かが抱き留めた。目線だけ後ろにやれば特徴的な髪型と大きなヴァイオレット。

「そうはさせないぜ!」
「な…っ!」
「お前は…遊戯!」

キャー、武藤君カコイイ!ええと…ヤバい方の武藤君!!なんてタイミングが良いんだ。まるで少年漫画の主人公の様だ。敢えて言わせて貰うならもうちょっと早く来て欲しかったな!具体的に言うなら私がここに来る前くらいに。ていうかもう良いよ。腰から手を退かせ。後は任せる。帰らせてくれ。頼む。

「残念だったな。オレへの予言は外れたようだぜ!狐蔵野!」

するどい目つきで狐蔵野君を見据える武藤君。怖い。怖いぜ。私の一歩前に出た武藤君が、狐蔵野君に呼び掛ける。

「どう?オレとゲームをしようぜ!オレが負けたらお前を超能力者と認めよう!」
「ゲームだとぉ!?」

な、ナニィ?!ゲームだとぉ!?私も一緒に驚きたい。げ、ゲーム?!このタイミングで!?何でや。どうしてそうなった。わけが分からないよ。ポカンとしてたら名前を呼ばれる。ひぃい。何ですか。

「#名字1#さん、杏子を暫く頼むぜ」
「え…何ソレ困ります」
「すぐ戻る」
「なんかデジャヴ」

前にもこんなことあった気が、っていうかあったわ。同じやりとりしたわ。カラオケとかカラオケとかカラオケで。武藤君は狐蔵野君から奪い返した真崎さんを私に押し付けると、教室に入って扉を閉めた。閉め出された。えええ。私帰りたいんですけれども。これは無理なフラグちくしょう。私の腕の中ですぅすぅと可愛らしく眠っている真崎さんを見下ろすと、自然に溜め息が出た。



隣の教室で待つこと何分でしょうか。隣からガシャーンと何かが割れる音がした。そして開かれる扉。満足そうな顔をした武藤君(仮)がそこに立っていた。

「待たせたな」
「はぁ…」

いや、まぁ、待ってたっちゃあ待ってたんだけど別に会いたかったわけじゃないっていうか、もう帰ってもいいですかね。

「杏子は…まだ寝てるか」
「はい」
「まったく…呑気で可愛い寝顔だぜ」
「…ソウデスネ」

ノロケ話なんざ聞きたくないんだよ。リア充爆発しろ。真崎さんの寝顔を見て笑う武藤君に向かって心の中で吐き捨てる。じゃあ私はこれで。そう言って立ち上がると、武藤君に手を掴まれた。なんすか。

「今日は#名字1#さんの忠告に助けられたぜ」
「はぁ」
「ありがとな」
「いや…別に…」

パッと手を離される。よっしゃあ!鞄をひっつかみ急いで教室から出た。ちら、と見えた教室の中に、仰向けに倒れた狐蔵野君がいた。何したんだよ武藤君。そのまま振り向かずに学校を出た。次の日学校に行くと、狐蔵野君はまだ寝ていて。そのダサいマントの内側に予言がイカサマである証拠がこれでもかというほど仕込まれていたことが発覚し、一時騒然となった。どうでもいいわ。何にせよ武藤君超怖い。昨日の記憶はないらしく、城之内君やら何やらと一緒に驚いていた。やっぱり多重人格説が濃くなってきた。まじ無理だわ。やっぱり武藤君と仲良くなるのは無理だわ。そんな可愛い顔で挨拶してきたって駄目だからな。おい。こっち見るな。やめろ。見るんじゃない。

「#名字1#さんおはよう」
「真崎さん、おはよう」











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