ドミノ刑務所から囚人が脱獄した。先日そんなニュースが報道されたがそんなことはどうでもいい。そんなことより今はハンバーガーだハンバーガー。最近新しくオープンしたバーガーワールドというファストフード店。なかなか美味しいと評判らしいので、放課後やってきたわけだ。え?勿論お一人様に決まって以下略。

「ハ〜イ、いらっしゃいませ!お客様一名様ですね〜!只今お席にごっ…!」
「……」
「案、内…」
「……」
「…#名字1#さん…」
「…真崎さん…」

アナタこんな所で何してんですか。


「お願いっ!この通りっ!」

パン、と手を合わせて真崎さん…もとい真崎杏子さんが頭を下げている。なんでも、お金を貯めるためにバイトをしているんだとか。しかしうちの高校は基本的にバイト禁止。だからチクらないで、ということらしい。いや、言わないよ。真崎さんは可愛くて活発なクラスの人気者。そんな彼女が私のせいで退学とかになったらボコボコにされるわ。誰にとは言わないが。

「#名字1#さん?」

チラッと見てくる真崎さん可愛い。つらい。頭下げさせてしまって申し訳ない。分かった、と頷けば「ありがとう!」と手を握られる。

「今まであんまり話したことなかったけど、#名字1#さんっていい子なのね!」
「いや、別にいい子ってわけじゃ…」
「それに比べてアイツらは…」
「アイツら…?」

首を傾げれば、真崎さんは向こうの席を指して城之内と遊戯よ、と言った。ゲ、武藤君来てるわけ?

「#名字1#さんは偶然けど、アイツら跡着けて来てたのよ!信じられる!?」
「ははは…」

まあやりそうではあるな。ていうか武藤君いるならマジ帰ろうかな。そう考えを巡らせていた私の手を、真崎さんが握ってくる。えっ、何。

「まあいいわ。それより席に案内するわね」
「あ、ありがとう…」
「それから今日は私の奢りよっ」
「ええ、そんなの悪いよ」
「いいからいいから!」

ぐいぐいと引っ張られて席に座らされる。そのまま真崎さんのオススメだというバーガーとコーラを注文した。向こうの方から視線と共に、「あれ?#名字1#さん?」と聞こえてきたが無視だ。無視。注文したものが届くまでにトイレに行っておこう。そう考えて席を立つ。新しくできたということもあってトイレは凄く綺麗だった。手を洗ってハンカチを取り出す。そのままドアを開けようとした時、

「オラオラぁぁぁ!!騒ぐとこの女ぶっ殺すぜぇぇ!!!」
(…っ?!)

開けかけた扉を咄嗟に閉める。な、何なんだ今の。もう一度恐る恐る扉を開ければ、囚人服を着た男が、店員の女の子…真崎さんの米神に銃を突き付けているところだった。静かに扉を閉める。もしかしてあの人、ニュースでやってた脱獄囚?よく見えなかったけど多分そうだよね?オオゥ…。ヤバいんじゃないの、コレって。取り敢えず落ち着け。深呼吸だ深呼吸。ひっひっふー。落ち着け私。ツッコミはいない。

(脱獄囚…、真崎さん、人質…)

やらなきゃいけないことは?特攻?真崎さん助ける?逃げる?通報?…通報!!!

バッとポケットに手をやれば、いつもの感触がそこにあった。神様!ありがとう!携帯電話を掲げて五秒だけ神に感謝してから、速攻警察に通報した。110、110。ひいい、手が震える。コール音が、途切れる。

『はい、警察です』
「た、助けてください…脱獄囚が、います。あの、童実野町のバーガーワールドっていうお店で、銃を持ってて」
『落ち着いてください。今、向かいますからね』
「は、はい…」

ひぎぃ。テンパる。携帯電話を握ったまま、また少しだけ店内を覗くと、私に背中を向けて座っている脱獄囚の向かい側に武藤君が座っていた。怖い方の武藤君だ。だがしかしいつもは怖いだけの武藤君が今だけは頼もしく感じる。心なしかイケメン度が上がってる気がしたけど目の錯覚だった。武藤君の視線がチラリとこちらを向く。手に持った携帯電話を軽く上げて合図すれば、武藤君は自然な動作で視線を脱獄囚に戻した。あ、今チラッとこっちにウインクした。分かったってことだろうか。後はもう皆に任せます。私にできるのはここまでだ。扉を静かに閉め、トイレの一番奥に縮こまる。マジ日常生活の中でこんな深刻な通報する日が来るとは思ってなかったわ。リアル脱獄囚とか。マジ怖い。早く、警察、来い。

それから何分経っただろうか。一瞬のようにも感じたし、何時間も経ったような気がする。唐突に、店内から叫び声が聞こえてきたのだ。それからバタバタと走る音。え、何。何が起こってんの。超怖いんですけど。武藤君と真崎さん無事?大丈夫か?様子見したいけど怖くて動けん。あばば。

バターン!と扉が開かれた。

「#名字1#っ!いるか!?」
「!?」

この声は、この金髪は

「じ、城之内…君…?」
「おっ、無事だな!」

うおおお、何でお前が来たし。ここは女子トイレですよ!!と、叫びたいのを我慢して、手招きする城之内君に近付く。大丈夫?え?大丈夫なの?脱獄囚どうなったの?城之内君に腕を引かれて出口に向かう中で店内をキョロキョロ見回したら、脱獄囚が座っていた場所に、黒こげの何かが座っていた。髪の毛が焦げる特徴的なにおい。ちょっと、待って、ねぇ、まさかとは思うんだけど、脱獄囚の人燃えた?何で?武藤君が燃やしたの?

「…う……」
「大丈夫か?」

大丈夫なわけないだろ。


店の外に出ると、警察がいた。遅いよ。もっと早く来いよ。真崎さん達が、こちらに気が付いて手を振ってくる。

「#名字1#さん!」
「ま、真崎さん…大丈夫?怪我してない?」
「大丈夫よ!」
「よかった…」

ほ、と息を吐く。ていうか真崎さんさっきまで人質やってたとは思えないくらい元気なんですけれども。心なしか頬も赤い。やだ、なんかまためんどくさいことかな。

「あのさ、#名字1#さん」
「うん?」
「私のこと助けてくれた人、見た?」
「………私トイレにずっと隠れてたから分からないです」
「そうよね〜。はあ…」

その恋する乙女みたいなため息止めていただけます?恐らくアナタが恋したのは後ろでお腹すいたとか騒いでる武藤君ですよ。生きた人間焼いた人ですよ。しかもあんな人間の丸焼きした直後にハンバーガー食べ損ねたとか言えるあたり武藤君マジサイコパス。ていうか皆動じてなさすぎる。怖すぎるんですけど。お前ら心臓何でできてんだよ。アダマンチウム製かよ。ちょっと半径15m以内に入ってくるの止めて下さい。うう、なんか気分悪くなってきた。思わず口元を抑えると、武藤君が大丈夫?と近付いてきた。だいたいお前のせいだ。止めろ。来るんじゃない。やめてくださいお願いします。











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