※キャラ崩壊を含む為注意



ピーちゃんの顔色がさえない。
「ま〜前はそれなりに鳥っぽい色だったけど、今や真っ白だもんね〜」
と響。
「いやそうじゃなくて」
アコは冷ややかな目で響を見る。
「食欲もないし、話しかけてもこっちを見てくれないの…」
と、両手に乗せたピーちゃんに心配そうに視線を落とす。
確かにピーちゃんは少しやせているようだ。心なしか、目もうつろだ。
つい数日前までは元気そうだったのに、と響、奏、エレンは首をかしげた。
しかしそこに救世主が現れることになる。
遠くから何者かが走って来る。
ドドドドドドドドドド…
ずしゃっ
到着するや否や。
「ピ―――――――――――さまぁぁああああああッツ!!!」
「さま?!」


Breeders


やって来たのはファルセットだった。
ピーちゃん同様に真っ白なマントを羽織り、いかにも“正義の人”ないでたちである。
「ああっピー様大丈夫ですか?食欲ないんですかっ!どっか痛いですか?背中さすりましょうかぁああ?!」
一気にまくしたてるので、ピーちゃんはおろかその真上にあるアコの顔にもファルセットの唾が飛びまくる。
「うるっ…」
アコがぶるぶると体を震わせたかと思うと、
「っさいわぁ――ッ!!」
見事なアッパーカットをファルセットのみぞおちに入れる。
女子中学生3人は見逃さなかった。あんなに元気のなかったピーちゃんまでもが強烈なキックを入れていたことを。
1人と1羽の攻撃を食らい、青空へ飛ばされ地上へ落ちてくる男を尻目に、
「誰!こんなの呼んだの。エレン?!」
「わ、私じゃないですよ姫!」
アコが虫の居所悪そうに八つ当たりするので、つい語尾がかしこまってしまう同郷の元猫。
「姫!」
「きゃっ?!」
十数メートル先で倒れていたはずのファルセットが目の前に現れ驚く。
「ここは私(わたくし)にお任せ下さい」
先の慌てぶりが嘘のように、落ち着きはらって姫の前でひざまずく騎士。
そしてアコの手からピーちゃんをもらい受ける。
「あ、そうかぁ」
響が手を打つ。
「ファルセットもピーちゃん飼ってたことあったもんね」
ファルセット“も”?
アコはこんなのと一緒にするなと響を睨む。
それを見て奏が
「ま、まぁ…確かにピーちゃんの話すこともあの時はわかってたみたいだし、任せてみてもいいんじゃないかしら」
とフォローを入れた。
むしろアコよりも彼のほうがピーちゃんと過ごした日々は長く、今信じられるのはこの男だけだった。
しかし今や洗脳し洗脳されの間柄ではないのに、本当にこの鳥の翻訳ができるのだろうかと皆不安げに見つめた。
実はファルセット本人も不安だったのだが、
『おま、ほんッとっせーなオイ。しばくぞコラ』
あまりよろしくない言葉が頭の中に聞こえてきた。
聞きたくなかったなー…と思ってみたものの、姫君のお役に立てるのだからと我慢する。
「ど、どこか具合の良くないところでも?」
その後、ピーピーはいはいというやりとりが繰り広げられるのを見、少女達は安堵した。
が突然、
「な、な、な、なぁんですってぇえええ?!」
オーバーアクションで驚くファルセット。
そしてくるりと首だけ回して、後ろのアコを見る。
「姫…ピー様に何をあたえてます?」
「え、鳥だからミミズを」
「それですよおおお!!」
ドーンという効果音とともに、なんとも無礼なことに人差指を向ける。
「ピー様はそんじょそこらの鳥とは違うんですよ?んなちっぽけなミミズなんてもってのほかです!」
確かに鳥と呼んでいいのかどうか迷うところではある。
あまりの説得力に、少女たちは一様に大きくうなずく。
「じゃあ、何をあげてたの?」
「マムシです」
マムシと言えば蛇の一種だ。それただミミズの大きいバージョンだろうと呆れたが、
マムシ…日本各地に広く生息する毒蛇
エレンがどこからか取り出した分厚い辞書からそれを読み上げると、皆いやいやいやと手と首を横に振った。
「当時のピー様は悪の権化ですから、毒くらい平気ですよ」
ファルセットがにこやかに説明するが、
「だからそれ当時の話でしょ?今はピーちゃんはそういうのじゃないの!」
「あ、でもこうも書いてあるわ」
アコの反論に、エレンが口をはさんだ。
マムシの粉は滋養強壮の効能があり、マムシ酒もよく飲まれる
それを聞き、やっと納得がいく一同。
「ということで、ちゃんと買ってきてありまーす」
ジャンという効果音を自分の口から発しながら、ファルセットは瓶を取り出した。
なんだよ…結局蛇そのまま食らうわけじゃないのかよ…
じとりと冷めた目で陽気な男を見つめる女子中学生と小学生。
その視線にも気付かず、ファルセットはピーちゃんの口へ瓶をあてた。
粉はドバドバとピーちゃんの口内へと入っていった。
そうドバドバと。
一瞬の間があいた後、
ゲフォッゲフォッとむせ出すピーちゃん。
そしてジャンプ。
ファルセットの頭に乗ったと思いきや、
「ああああああああ!!!」
男の断末魔が響き渡る。
一連の流れを呆然と眺めていた女子チームであったが、
「ピィー!ピィー!」
ピーちゃんの元気な声を聞き、ひと安心した。
どうやら本当にマムシが効いたのだ。
「ピー!ピー!」
さらに何か叫んでいる。
それに耳を傾けるファルセットに、
「何?なんて言ってるの?」
やっと柔らかい表情に戻った姫が問う。
「焼き肉とすき焼きが食べたいんですって」
鳥が焼き肉にすき焼き。
鳥とはいえ、さすが元ラスボスの貫録である。
「いや〜僕ら男所帯だったでしょ?食べるものったら焼き肉とかそんなんばっかりだったんですよね〜」
と頭をかく。
どうやら人間と同じものを与えていたらしい。
「あの…さっきのマムシってのは…?」
ピーちゃんをもらい受けながら響が聞くと、
「なかなか大きくならなかった時に、ふと入った薬局で薦められてね〜サプリ感覚であげてました」
なんだか話が違ってきた。
「あ、あとお寿司も好きでしたね〜ウニばっかり食べて。フォアグラ食べた時はさすがに共食いでしょ〜ってツッコミましたけど。そうそう、ピー様は寝る前に金華ハムの入ったふかひれスープ飲むのが日課でしたから、お願いしますね姫」
高級な単語が並べられると、アコは再び体を震わせた。そして
「やっかましいわぁ――ッツ!!」
本家顔負けの怒声が飛び、拳がファルセットの顎を突く。
同時に、なさけない叫び声を発しながらファルセットは空へと消えていった。
一方本家エレンは、同じ釜の飯を食べたこともあり特上生寿司3日連続という日も実際あったので、アコに見つからないように隠れていたという。
響と奏は星となって消えた救世主にいちおうの感謝をした。
「ピーちゃんを助けてくれてありがとう…でももう来なくていいからうるさいから」
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -