※ファルセットの正体とノイズのキャラクターを捏造しています。


僕は歌の妖精。
幸せのメロディの歌い手になって、僕の声でみんなを幸せにする。
それが僕の夢。
幼い頃からの夢。
僕は声変わりらしい声変わりをしなかった。
風邪をひいたみたいに声が出ない時期なんて全くなくて、とてもなだらかに変声期は訪れそして過ぎ去った。
幼いころに比べれば多少声は低くなったかもしれない。
それでも裏声を使えば女性に負けない高い声を出せる自信がある。
僕が最も恐れていた、自分の力ではどうしようもない試練を突破できた。
チャンスの女神は僕の近くにいる。
確実にその前髪を僕は掴んでいる。
行かなくちゃ。
今日、いよいよオーディションの課題曲が配られる。
一生懸命練習して、僕は幸せのメロディを歌うんだ。


僕は何も掴んでいなかった。
至極簡単な話。
幸せのメロディを歌えるのは ”歌姫” 。
声の高さなんて関係なく、男である時点で僕には最初からオーディションを受ける権利すらなかったのだ。
なんのために僕は歌ってきたのだろう。
ただ、あのメロディを歌うためだけにここまできたのに。
呆気なく夢は砕け散った。
悔しくて悔しくて、僕は泣きながら歌う。
めちゃくちゃな歌。
悲しみの歌。
幸せのメロディ?
ふざけるな。
僕を絶望の淵に立たせたくせに。
幸せのメロディは僕を幸せにはしてくれない。
「素晴らしい声だ。」
突然の声。
僕が辺りを見渡すと、木の枝に一羽の烏がとまっていた。
「素晴らしい声だ。」
同じ言葉を繰り返し、じっと僕を見る。
真っ赤な目。
いや、目そのものは黒い。
瞳の中に宿る光が炎のように真っ赤に揺らめいているのだ。
「お前の声が欲しい。私のために歌ってくれ。」
烏は大きく翼を広げる。
「不幸のメロディを。」
ぞわりと全身に寒気が走った。
不幸のメロディ。
その響きが耳の中で反響し鼓膜を震わせる。
不幸のメロディ。
もう一度呟けばずっと前から知っていた言葉のようにしっくりと馴染んだ。
いいじゃないか。
幸せのメロディは僕を拒んだ。
なら僕は……
「不幸のメロディを歌いたい」
僕を欲しいと求める人の為に。
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