許されない恋と言うのなら



こんな状況でさえ今目の前にいる彼ではなく、私たちの生みの親ともいえるあの方を思ってしまう私はなんて酷いやつでしょうか。今この場所には彼と私しか居ません。それは私によって図られたことでもあるのですが、彼もきっとこの方が都合がいいと思うのです。なんて私にとってもそれは言えることなのですが…。

「お前、なんで…ッ」

彼の敵意をむき出しの言葉は確かに私へと届いたのですが私は答えることをためらってしまうのです。
昨日まで幸せいっぱいの私たちだったんですよ。彼は無愛想ながらも優しくて、私も彼とならずっと一緒でもいいと思っていました。けれどそれも戯言というものでしょう。なぜならば私はAKUMAという作られた破壊兵器であり、彼はエクソシストという私たちAKUMAを倒す存在だからです。





私たちが出会ったものは偶然などではなく、それこそ必然的なものでした。ある街の一角、私たちはエクソシストを見つけ本能的に倒すことにしました。そのエクソシストがそう、彼なのでした。初めて出会った時も彼は今と同じ格好をしていました。挑戦的な瞳に長い黒髪を揺らしまるで舞うように私の仲間を倒していく姿に私はついときめいてしまったのです。そのときの私は仲間と違い人の形をしていましたので彼は私のことを被害者だと思ったのでしょう。仲間を全て倒した彼は私へと振り返り手を差し伸べてくれたのでした。

彼は長期の任務だったのでしょう、それからたびたび街で見かけるようになりました。私はその街唯一の生き残りのAKUMAですので千年伯爵様が送ってくださった他のAKUMAが必然的に集まってくるわけで、そしてそのたびに彼は現れて私を助けてくれるのでした。
「お前は危なっかしくて目がはなせねぇ」
頬を赤く染めながら私にそう言って下さった彼はまだ記憶に新しいものです。
「だったらあなたが守ってくれる?」
そう答える私はどれだけ汚いものだったでしょうか。





「ふざけんなよッ!」

彼の怒鳴り声に意識を戻し、だけど私は何も答えることができません。昔のことなど思い出すべきではないですね。彼との別れがとても辛いものになっていくのがわかります。
「私だって…」そう呟いた言葉は彼へと届いたのでしょうか。私だって本当は辛いのですよ。哀しいのですよ。いったいどれだけこの運命を恨んだことでしょう。

「俺はお前のこと…!」

知っています、知っていますとも。あなたの行動、言葉全てが私を愛してくれていることも。大切にしてくれていることも。でも…ッ

「私だって…!」

まるで吐き出すように溢れる言葉は止まることを知りません。

「私だってあなたのこと大好きですよ、愛してる!それでもあなたはエクソシストで私はAKUMAで、敵同士なの!あなたは知らないでしょう、所詮造られた殺人兵器の私が、所詮おまけのように付けられた心でどれだけ悩んだかなんて!辛くない訳がないじゃないですか、哀しくない訳がないじゃないですか!」

胸が締め付けられそうな程イタイのに私の瞳からは涙すら出てくれないのですよ…ッ!

悲痛な私の叫びに彼は目を見開きそして眉をしかめました。悔しそうに閉じられた口はいったい何を紡ごうとしたのですか?

「ユウ……、」

1歩彼に近づけば、それでも彼は武器を構え直し私を見ます。しかしさっきまでの殺気が伝わってこないのはきっと彼が少なからず動揺しているからでしょう。1歩、さらに1歩と距離を詰め私は彼の攻撃圏内へと踏み入れるのです。「おい、」しかし私の足は止まりはしません。「おい!」進む、進む、まだ足りないのです。遠いのです。「おいッ!」

ピタリ

やっと止まった私とあなたとの距離はまさに目と鼻の距離でした。ジッとあなたを見つめる私にあなたの瞳は揺らぎます。

「優しいね、どうして攻撃しなかったの?」

今だって、

視線を横に逸らせば、私を切らないようにと避けられた彼の刀が目に映ります。あのまま進めばその刀は私のからだの中心を貫くはずだったのです。違うでしょう?その刀は私を壊すためにあるのでしょう?
そっと、刀を握るその手に私の手を重ねると、あなたは一瞬からだを硬直させます。私は重ねたままのその手を動かし刀を自分へと向けるのです。彼の驚きを含めた声が聞こえましたがその声にいちいち答えてあげる余裕など私にはもうないのです。

「はやく、壊してください」

からだが疼くのです。
コイツを殺してしまえと何かが私に甘く囁きかけるのです。
抑え、我慢し続けてきた殺人衝動はもうすぐそこまで込み上げているのです。

「さぁ、はやく。私が私を保っている前に」

握る力を強めれば彼は小さく頷き彼の刀を握る手に力がこもるのがわかりました。肩口に添えられる刀に徐々に力がこもり、そして一瞬で振り切られるのです。感じる痛みがもうすぐ訪れる私の終わりを知らせます。薄れる意識の中、傾く私のからだを彼が支えてくれるのを感じるのでした。

あのね私幸せだったんですよユウ。短い間だったけどあなたのくれた言葉は本物だったし私があげた言葉もすべて本物でした。まるで裏切るような形のお別れになってしまってごめんなさい。でも、もし願いが叶うなら来世でもあなたと出会えることを…、あなたの隣に居られることを願っています。


「     」

最後に彼が残した言葉に笑顔を返し、そして私の意識は途切れたのでした。





20101203/企画『最後の恋は叶わぬ恋となり散り果てた』様提出