四話

呪いの籠った縛りと、何より特級としての自分の力を信用してくれているようで、名前の監視――世話は一時私の預かりとなった。
部屋の中所在無さげに座る名前は私の傍から離れようとせず、まるで子犬にでも懐かれたようで何だか擽ったい。
着替えた服は私のもので、サイズの合っていないそれは彼の細い腕を顕にした。

「君のサイズに合うのがなくて悪いね」
「いい、大丈夫。傑は嫌な匂いしないし」

人懐っこく笑う姿は相応の幼さがあって可愛らし……いやそれは少し置いておいて。
どうやら人より過敏な五感を持つらしい彼はTシャツの裾を弄ぶ。
面倒な上への説明や手続き関連は担任に丸投げしてしまった事だし、私がやるべきは名前という“もの”を知ること。
あの瞬間、赤黒く光った瞳は今は見慣れた色をしている。

「それは良かった……名前について知りたいんだけど、いいかな?」
「うん、何でも聞いて」
「君はさっき呪霊を喰っただろう?体に異変は?」
「無い…かな。」

呪霊は祓えばあとには何も残らない。
けれどそれを全て腹に収めたということは、彼には呪力や術式は無いということ。祓ったのでは無く、文字通りその全てを喰ってしまったのだ。
私とは違う、体にどんな異変が起きるともわからない。

「多分アレは俺にとって、人の代わりのようなものなんだ」
「代わり?」
「俺は多分、1度死んでここにいる。きっと俺はこの世界のものじゃない。わかるんだ、人とは違うから」

初めて目が合った時、背筋を駆け上がる悪寒を感じた。呪霊と相対した時とも――あの怪物のような男を前にした時とも違う、得体の知れないそれは恐怖に似ている。
どんなに突飛な話も、名前を目の前にすると信じる他ないと本能が告げていた。

「俺は人を喰う事でしか生きられなかった。だから沢山……殺して喰った。」

それは、仕方ないで済まされない彼の罪だ。赦されない、沢山の罪。

「当然命を狙われたし、きっとその中で俺は死んだけど、傑は殺さないって言ってくれた。だからね、役に立ちたいんだ」

贖罪で濯うことの出来る罪は少ないけれど、ただ名前は純粋なだけだった。
そういう風にしか生きられないだけで、きっとそれは私も同じだ。
この頃抱えていた鬱積はその純粋さに溶かされていく気がする。
役に立ちたいと、救われたいと切望するそれを。私だけは赦してやりたいと思うのだ。

「ここは呪霊を払う術を、人を助ける術を学ぶ場所なんだ。だからきっと、沢山の人を救うことが出来ると思うよ」
「そしたらさ、傑の役にも立てるかな?」
「君が強くなってくれたらきっとね」
「じゃあ俺、強くなる。そんで傑のこと守るからね」

思いもよらぬ言葉に、思わず吹き出す。
守るなんて言われたのは特級になってからはもちろん、今まであっただろうか。
それを嬉しいと感じてしまうのだから、困ったものだ。

「それは、ふふっ…楽しみだね」

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