三話

“人を喰う、化け物”

光なく、悲しみを背負った瞳が、緩く歪む。
無理やり繕った表情は今にも泣き出しそうで、それを聞いて尚彼を悪だと言いきれない自分がいる。

監視として後ろに控えていた担任はずっと顔を顰めたままで、このままでは名前の処分は文字通りのものとなるだろう。
何故か、そうしたくないと目の前の少年は思わせる。
それはきっと同情なんだろうけれど。

「君はさっき、呪霊を喰ったろ?」
「不思議なんだ…起きてからずっと、人を喰いたいと思わなくて。さっきの変なの…呪霊?は食べちゃったけど」
「これから先ずっと、人を食べないと約束できる?」

座る名前に目線を合わせ、問い掛ければその瞳には光が薄らと戻る。
なんの根拠もない、いつかこの子は人を殺すかもしれない。
それでも、赦しを与えてやりたいと思うのだ。

「できる…約束、する……っ」
「…先生」
「なんだ」
「彼を、私に任せては貰えませんか?」

人を喰うと悲しげに告げた少年は、私と同じように呪霊をその腹に収めた。
赦されない罪は、これから濯いでいけばいい。何かあればその時は、私の手で――

「……高専預かりとしてなら、許可しよう。」
「それじゃあ……!」
「但し何かあれば傑、お前の手で片を付けるんだぞ」
「勿論です」

呪いを込めた“約束”は、彼の命を首の皮一枚繋ぐ。
独りぼっちで自分を抱くように眠っていた彼に私は、どれだけ寄り添ってやれるだろうか。

「まだ聞くこともやることも沢山あるけれど、君は私の後輩になるんだよ」
「俺、殺されない?」
「殺さない。沢山人を傷つけたなら、私と一緒に沢山の人を救っていこう」
「うん、うん……ありがとう……っ」

安堵にぽろぽろと涙を零す名前の頭を撫でてやれば、へにゃりと笑う。先程みたいに取り繕うようなものではなく、嬉しげに。
面倒を、とため息を吐く夜蛾に彼の拘束を解かせてから、この湿った部屋から外を目指す。

「あの、貴方のこと…名前…」
「あぁ、私は夏油傑。」
「傑、ありがとう」
「どういたしまして」

自由になった手は、私の制服の袖を掴む。なんだか懐かれた様だ。
さて、親友への説明はどうしようか。

「まずは君のことを教えてもらおうかな」
「なんでも聞いてよ」
「うーんそうだな…」

喰種とは何か、何故高専の門の前で眠っていたのか、何処から来たのか――。聞きたいことは沢山あってまだまだ面倒な手続きは沢山あるけれど、ひとまず。

「取り敢えず着替えようか」

話はゆっくりと、それから。

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