俺が車を買うなら…って考えてみたけどそんなにいらねえなって話になった。
あれば便利だけどバイクで十分だ。免許さえ取れればすぐに欲しい。ちなみに免許が無くても良いなら普通に乗れる。
とまあうだうだ言ったけど何が言いたいかというと俺は今徒歩で工藤邸に来ている。この辺りは俺の家とは学校を挟んで反対側だから先週も今日と同じ用で来るまでは一度も来たことが無かった。初めて見た工藤邸は両親が両親なだけあって割とデカい家で驚いた。(でも考えてみたが工藤新一とサラリーマンがローンを組んで建てたそれなりの大きさの家はあまり合わない。)隣の家もデカいし妙な形してるしいわば高級住宅街なのだろう。
日が暮れた住宅街は静かでこの時間帯に出歩く人がいないことは先週から確認済みだ。
しばらく待っていると俺の目の前に黒い車が止まる。ポルシェではない。
車から降りてきた俺の知らない黒服の男と志保さん。相変わらず志保さんはVIP待遇だ。俺も乗せてくれりゃあいいのに。
「久しぶり、志保さん。変わりない?」
「なにもないわ」
「そっか、じゃあ行きますか」
今日来たのは工藤新一の動向を探る為だ。先週入ったときと、昼間の毛利先輩の話しからしてあれから一度もこの家に工藤新一は帰っていない。
普段志保さんが現場に入ることなんて無いだろうけど、今回は志保さんが開発した薬が関係している。なにか志保さんだけが気付くこともあるのかもしれない。
「大体試験段階の薬を使うなんて、」
「すみません。でも緊急事態だったんで」
「あなたとジンがいて緊急事態なんてあるのね」
「え、それどういう意味?」
怒ってんの?褒めてんの?
調子に乗って聞こうしたいけどやっぱり止めた。
基本的に俺達の関係は全てにおいて志保さんが上だ。年齢面でも、頭脳面でも地位的なものでも。でも腕っ節なら負けないな。てゆーか負けたら洒落になんねえし。
そんな志保さんは俺を褒めるなんてことはまずしない。俺は志保さんのこと凄いと思ってるけどね。
だけど今のって志保さんが俺のこと少しは認めてるってことだよな。やべ、ちょっとうれしいかも。
自然と口元が緩んでいる気もするけど放置して志保さんを工藤新一の家に案内する。
「じゃあ俺はメーターとか確認してくるから気になるところみて下さいね」
この間もしたように水道と電気の使用量を確認するために志保さんから離れる。
「そうだ。これ、メールで言ったトロピカルランドの土産。こないだ渡し損ねてたんで」
志保さんに言うと、志保さんは眉間に皺を寄せた。なにかまずいところがあったか?もしかしてもう持ってた?と思っていると直ぐに志保さんが、
「最近のあなた、馴れ馴れしすぎないかしら?」
まるで不愉快だと言うような口調で言った。どうやら調子に乗りすぎたらしい。駄目でしたか。なんてゆうか、カルバトスみたいに男同士ならもう肩組んで飲めるとおもうんだけど、…女って難しいな。
「いいじゃないですか、別に志保さんにだけって訳じゃないですし、あ、これ同じのが明美さんに渡してあって使ってくれたらお揃いで付けれますよ」
「…貰っておくわ」
「よっし!」
「何か言った?」
「いやっ、何も」
そうだ。カルバトスって言えば
「あの、志保さん」
「何?」
「このあとカルバトスと飲みに行くんですけど、志保さんもどうです?」
いつもカルバトスの顔を見ながら飲んでいたんじゃつまらない。たまには志保さんを誘うのも悪く無いと誘ってみたのだが、志保さんは何故かじとっとした目で俺を見る。
「飲むってあなたも私も未成年じゃない」
「あ、飲むって言っても俺は殆どコーラで酒飲んでるのはカルバトス達だけだし、」
志保さんはまだ俺をジト目で見ていたけどしばらくするとため息をついて一言“行かないわ”と俺の誘いを断った。
「大体、男二人の飲み会なんて出来ることなら一生行きたくないわね」
「今日はキャンティ達もいるから男だけじゃないよ」
カルバトスにキャンティとコルン、全員が同じ時に日本に来るのは実は珍しい。こうなったら集まるしかないってのはドライな組織じゃ珍しい狙撃組の体育会系的ないい所だと思ってる。何て言ったって居心地がいい。
「余計行くわけ無いでしょ」
「え、なんでさ」
「どうでもいいことは止めて作業しなさい」
なんか組織の女の人達って仲悪いよな。
何でかしらないけど。
「こっちは変わり無いですけど、そっちはどうです?」
「…」
「何見てるんすか?」
志保さんが覗き込んでいた箪笥を後ろから覗き込んで見たけど何も入っていない。
「…なんでも無いわ」
「…?ならいいですけど」
一通り確認してなんの変化もない。
多分もう此処に来ることも無いだろう。
「じゃあ、何も無かったってことでいいですね」
「しつこいわね」
「しつこいって…まだ2回しか聞いてないんだけど、まあ、一応この件の責任者ですから」
「それ、大丈夫なの?」
「え、全然大丈夫ですよ。なんかまずい所ありました?」
「日本以外で暮らしたことがないくせに未だに敬語が使えないのはどうかと思うけど?」
「あー…、一応気を付けてんですけどまずい?」
「まずいわね」
昔から志保さんと話しているときは気を付けてはいるんだけど、親近感?年上だけど幼なじみだからそんなものがあるせいか、変に崩れた敬語になる。多分最初に会った時からこんな感じだから一生治らないだろう。
志保さんを乗せてきたやつにも終わりを言って解散する。
「じゃあな」
「あまり飲まないことね」
「分かったよ」
このまま歩いて駅まで行く。多分キャンティなら車に乗せてくれるだろう。…運転してるのはコルンだけど。
組織の女はどうも気が強い。