「またなー」
「…」
帰りの挨拶はしてくれなかったけど志保さんと過ごしたことで上機嫌の俺は父親と歩きながら志保さんと話したことを報告し続けた。
「しほさんって英語しゃべるんだ」
「シホさんって宮野さんだったかな?」
「そう!みやのしほ!」
「そうか…宮野さんの…」
「父さんなんか言った」
「いや、なんでもないよ」
「今度はいつ行くの?おれあそこも好きだな。かっこいい銃もあるし、しほさん面白いし!」
志保さんは今まで一度も会った事の無いタイプの人でクラスで一番頭が良いと思っていた学級委員長なんかよりずっと物知りだし、口うるさくてお節介な女子とも違って俺はその時一番好きだった遊園地のアトラクションに乗る事なんかよりずっと次にいつ志保さんに会えるのかが気になってしょうが無かった。
「そうか。でもあそこに行ってもいつも志保さんがいる訳じゃ無いぞ」
「そうなんだよな。しほさんいつもはアメリカに住んでるって言ってたし」
期待した目をして見る俺に父親は少し目じりを下げて言った。
父はよくこの目で俺を見た。何か俺に対して悪いと思っている時にする目だけれどなんでもないふとした時もこの目を俺に向けている。
「志保さんのお父さんもお母さんも忙しいからな」
「父さんも一緒に仕事してるの?」
「お父さんとは別の仕事だよ。宮野さんは科学者だからね」
「科学者ってなにしてんの?」
「お薬を作っているんだ」
「うげぇ」
「こら。そんなこと言わないで風邪を引いたら薬は飲まないといけないぞ」
「おれ風邪ひかないもん」
「そうだな、それが一番いい」
そういいながら笑って俺の背中を叩いた父親からは朝はしなかった甘い匂いがした。
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得意気な顔、目じりの下がった顔、甘い匂い、全て今では見ることも気が付くことも無くなった筈のモノ達だ。それらが混ざって俺の思考を支配する。
まだあのアトラクションが在るかは分からない。
でも多分今二人で乗る事があったら父親より俺のほうが良いスコアを出すと確信している。
だからと言って俺に対する父親への感情が変わるわけでも無い。
まあいいか。
今更勉強を再開しても仕方ないし寝よ。
甘いフレグランスが僕を包み込む(何故だかすごく安心する)