朝の誰もいない筈の教室、静かな場所が好きな彼女はそこが気に入っていて朝練前の時間でも必ずいると江戸川に聞いた。 そして今日、俺がいつもより早く教室に入れば聞いていた様に灰原はそこにいた。 だけど教室に入ったはいいが俺は委員会の時ぐらいでしか灰原と話したことが無い。結局声がかけられず窓際の灰原の席とは離れている自分の席に座ってしまった。 なにしてんだ俺。 しっかりしろよ! 自分を鼓舞して灰原の座っている席の前に立つ。 「あ、あのさあ灰原」 やべえ吃った 「何か用?」 灰原はいつもと同じ様に淡泊に、本から視線を離さずに言葉を返す。灰原と小学校から同じやつに聞くと灰原は転校生で、その頃から仲の良い江戸川達四人にはもっと柔らかい感じらしい。 だからクールって言われていて、確かに冷たい印象を受けるけど灰原はただ冷たい訳じゃない。いつも一緒にいる吉田も子供っぽい訳じゃないけどいつも灰原の方が落ち着いているし、灰原はなんだかんだ言うけど同じ委員の後輩の面倒見も良い。クールって言うより大人だ。 「灰原」 「だから何?」 煩わしそうにこっちを見た灰原と目が合い少しだけ後ずさりそうになるところを堪えて大きく息を吸う。 「もし良かったら日曜、」 「灰原さん!!」 俺の言葉を遮る様に教室に飛び込んで来た円谷。 今から部活だと言って灰原を呼んでからちらっと俺を見た目には敵意しか写っていなかった。 円谷について教室をでようとする灰原を無理に止めるにもこの状況でさっき言おうとしていたことをもう一度、今ここで言えるかって言ったら無理だ。 俺はどうすることも出来ずにただ灰原を見送る形になる。 「ごめんなさいね。だけど私、恋愛に興味無いから」 俺の前を通り過ぎ際に言った一言に俺と円谷が固まったのを余所に灰原は一人廊下を歩いていく。 恋愛に興味ない。 だから諦めろって?いや違うだろ。確かに恋愛に興味無いのかも知れない。だけどそれ以前に、 「ちょっと待って!」 いきなり叫んだ俺を見て足を止めた灰原さんに駆け寄る。 灰原が驚いた顔をしているけど構ってなんかいられない。 「恋愛には興味無くていい。だから付き合うとかそういうのは別にして俺に、興味持ってくれ」 「……興味無いものは無いわ。だいたいどうして私があなたに興味を持たないといけないのよ」 「俺は、灰原が好きだ。だから灰原に俺のこと知ってほしいし、俺は灰原のことが知りたい。それでもし俺のこと少しでも好きになってくれたら嬉しいん、だけ、ど…」 「………」 …勢いで此処まで言ったけどどうするんだよ、これ。言葉繋がんねえし、自分でも何言ってんだよって感じだし、灰原絶対引いてんじゃん。 「…日曜日」 「え?」 「空いてるわよ」 「ま、まじて?」 驚いて灰原を見ると灰原は顔を逸らしたまま目線だけ睨む様にして仕方ないわねと俺に言う。 「とりあえず、あなたに興味を持てばいいんでしょ」 「よっしゃ!じゃあ日曜、10時に駅前な!」 じゃ、俺朝練あるから 時計を見ると思っていた以上に時間が無いことに気が付いて走る。 なんだこれ。めっちゃ嬉しい。 「あ、そうだ。灰原!」 振り返って灰原に言う。 「日曜日、絶対お前のこと楽しませるから楽しみにしとけよ!」 格好付けたいお年頃 (あーでかい口叩いたけどどうすんだよ俺) (結局格好付いてねえし) 27/8/2011 高望み 5000ヒット記念 prev:next ← |