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目の前に座る名前は肩肘を付きながらパラパラと教科書を眺めている。

「クレオパトラ、楊貴妃、小野妹子」

名前が教科書に視線を向けたまま、ぽつりと呟いた。

「は?」
「世界三大美女」
「小野妹子は違う」
「うそ。」
「嘘じゃねえよ。それに小野妹子は男だっての。」

「原田くんってさ、意外と頭いーよね」
「名前は意外に頭悪いよな」
「うわーひどい」

図書館の片隅で教科書とノートを広げる名前の姿は、頭の良さそうとか真面目そうとかそういう固い印象を受けるが実際はそうでもない。

実際の名前はよく気の抜けた様にへらっと笑い、頭は俺が若干心配になる程度に悪い。あと転びやすい。何もない場所で転ぶ。ついでに言っておくと何度か音楽の授業で伴奏を頼まれていたがピアノは弾けない。

とにかく、名前は見た目と中身のギャップが激しい奴だ。

だがそれが欠点かと言われれば俺は違うと断言できる。ピアノは弾けなくても名前とは音楽の趣味が合う。まあ頭が悪いのもこれから俺がじっくり一から教えてやれるってことだ。何よりあの気の抜けるへらっとした笑いに一番癒されているのは俺だろう。
だが転ぶのは是非ともやめて欲しい。あれは心臓に悪い。

「原田くん何でずっとこっち見てるんですかー?」

あまりに名前を見続けていたせいだろう。じとっと俺を見た名前は間延びした声で俺に問う。

「名前が可愛いと思ってな」
「またまたそんなこと言っちゃってー」
「本当のことだから仕方ねえだろ」

それはもう欠点と言われる所ですら惚れているのだから全てが愛おしくて仕方ない。
今だってほら、頭を撫でれば照れ臭そうに頬を緩めているその表情が堪らなく好きだ。

きっと俺は名前が想像している以上に、そして俺自身が思っている何倍も名前に惚れているのだろう。


(欠点さえも色を変える)


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