唐突な出来事だった。夢かとおもったし、なんか事故に巻き込まれたのかともおもった。だってあまりにも現実味がない。こんなのはおかしい、ありえない、どうかしてる。ぐるぐるぐるぐる。いろんな言葉が脳内でまわる。だめだ目もぐるぐるしてきた。目にうつる世界が歪みだしても俺は、今起きた出来事が理解できなかった。歪む視界でとらえた先にはやはりさきほどと変わらないアイツが飄々と佇んでるわけで。なにかんがえてんだよおまえ。なんなんだよ。冗談だって言って笑えよ、なあ。


キスされた、なんて。
告白された、なんて。
しかもあの神宮寺レンに。


ありえなさすぎて、おかしいところしかなくて、やっぱり俺の脳はぐるぐるしてるだけだった。






そこでハッと、目が覚める。なんだ夢か、そうかそうか。しかし現実はそううまくいかないことを俺はもうだいぶ昔に知った。最近よく見る夢だ。つまりは現実で起こったことをこうして何度か悪夢でみる。今のは夢だけど、起こったことは夢ではなくたしかに現実で起こったこと。はあ、と大きなため息をつく。さいきんの俺は、こうして1日が始まるのである。

元はあいつが提案してきたことだった。レンを避けることで解決しようとした俺に、レンは言った。試すみたいな軽い気持ちでもいいからって。自分のことをまだなにも知ってもらっていないのにフられるのは納得できないし諦めきれないと言われたので困った俺はその押しの強さとその場の独特な雰囲気に流されてしまったのだとおもう。だから俺は、レンの提案してきた内容―――そう、つまり恋人ごっこに乗ることにした。どうせ一時的な感情なのだと、レンの何気ない一時の気の迷いなのだと俺はおもった。元々があんなヤツなんだ。すぐに飽きる。俺を好きだったことなんてきれいサッパリ忘れてまたほかの女に愛を囁くのだろう。何事もなかったかのように。そうかんがえるとなんだか腹が立ってきた。俺はそれなりに衝撃を受けたわけで(まさか男に告られるなんておもいもしないし)その衝撃はのちのち傷となって心に残り、少なくとも消え去ることはないだろう。なのに巻き込んだ当の本人はいつか忘れてしまうのか?割に合わない。まさしく巻き込まれ損だ。


「とんだひでえヤツだなおまえは」
「なにが?」
「だから、さっきの話。聞いてただろ?」

雑誌から目を離さず俺のはなしに反応を返すレンを、俺は探るように見つめる。お試し期間的な恋人関係が始まってから変わったこと。それは俺がレンのことをこうやってよく観察するようになったことだ。


「ああ、俺がおチビちゃんに飽きてほかのレディに目移りするとかなんとか」
「そうそう」
「ねえ、おチビちゃん。そんな先のこと悪いように考えて、たのしい?」
「はあ?」


的を射ないことを言うヤツだ、とおもう。悪いように考えてるわけじゃなくて、それがレンの本心だろうから言ったことなのに。いつかは忘れてしまう感情だと、そうおもうから。だから俺は考えてるわけではなくて、これらはすべて事実になりうるわけで。


「人がなぜ愛を告白するのか、おチビちゃん知らないの?」
「んなの相手のことが好きだからに決まってんだろーが」
「そうさ。だから俺は告白したのさ。好きだから」


それ以上もそれ以下も、ないだろう?そう言われて腑に落ちない反面、納得してしまう自分もいる。要は今のこの感情を、俺が好きっていうこの感情をおまえは大切にしたいってことだろ。この先がどうとかそういうのは関係なくて、今、好きがあふれてる。ほんとうに勝手なヤツだなおまえは。勝手すぎる。


「なにが不安なのかわからないけど、俺はおチビちゃんとの未来があればそれでいいっておもってるよ?」
「どーだか」
「まあ今に見てればいいよ」


意味深に笑うから俺はなにがなんだかわからなくなる。…なにが未来だ。そんなもの、端から見ていないくせに。

あいしてるって耳元で囁かれても、やさしく抱きしめられたとしても、疑う心が邪魔をして好意を素直に受け取ることができないそんな自分が、心底意地悪く嫌なものに見えてきてしかたがない。レンのせいだ。ぜんぶがぜんぶレンのせい。そうだ俺は、ただレンに諦めさせたいからこの恋人ごっこを受け入れただけなんだ。ただそれだけなんだ。だからおかしい。俺はおかしい。いつか俺のことなんて忘れて、ほかの女と笑い合うレンをおもい浮かべてどうしようもなく腹が立つなんて。悲しいなんて。そんな事実あってたまるか。








20111008




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