※学パロ
※一般人なっちゃんと芸能人翔ちゃん










「よし、完ぺき!」


鏡にうつる自分の姿を見る。

目が隠れるくらいまで下ろした前髪。天然パーマを装うためゆるく巻いた髪の毛。前髪同様、なるべく顔を隠すため大きめの伊達眼鏡をかけて、そして制服は着くずさず至って標準。これでどこにでもいそうな高校生に早変わり。

こうして俺は、今日もただの一般人を演じる。




こんな胸のときめき




学校くらいは至って普通の一般的な生活を送りたい、そうおもったのがことの始まりだった。
普段はもっとこう、キラキラしたきらびやかな世界にいる。今をトキメくアイドルバンドのボーカル“翔”、それが俺の肩書きであり真の姿。俺は一般人なんかじゃない。正真正銘、芸能人なのである。
オシャレで時代の最先端をいく俺たちのバンドは若い世代に男女問わず人気があり、テレビや雑誌、ライブにイベントなど毎日がハードスケジュール。いくら好きなことを仕事にできていたとしても、死ぬほど音楽が好きだとしても、やはり疲労は溜まるし体力的にも精神的にも辛いときだってある。なんやかんやいってもまだ15のガキなんだ。好きなときに遊んで、部活に一生懸命になって、ふつうに恋だってしたい。だから高校生になる際、俺はある決意を固めた。そう、有名な歌手やタレントが通ういわゆる芸能学校みたいな高校じゃなく普通の学校に通おう、と。そうと決まれば早かった。大好きな音楽を基礎から勉強したいし、音楽科のある学校にしようと考えた俺は事務所の社長をなんとか説得して、見事早乙女学園という音楽科のある高校に入学するに成功した。



そして入学してから3ヶ月の月日が過ぎた。未だ誰一人として俺がテレビなんかに出ちゃってる所詮アイドルだとは気づいていない。やっぱりこの変装が効いてるんだろうな、なんてポツリと独り言を呟きつつ学校へと向かう。仕事で忙しい俺は多くて週3回くらいしか学校へ通えない。ライブ前なんかはもうリハーサルやらなんやらで2週間くらいろくに学校に通えない時期もあった。この異常な休み具合をまわりに怪しまれないようにするため、病弱設定をつけてその場を凌ぐ(設定とかいってるけど病弱なのはあながち間違ってない)。休む理由を風邪とか入院したことにして過ごしてるうちに部活や体育に参加できなくなってしまったのはいささか残念ではあるが、それなりに“普通の生活”というのを満喫しているつもりであった。学校に行ける日はできるだけ長く学校の雰囲気を味わいたいため、誰よりも早く学校へ着くことが最近の日課になりつつある。そして図書室に行って音楽についてたくさん勉強する。今日はどんな本を読もうか。考えただけでわくわくして、はやる気持ちを弾みに変えて俺は図書室に入った。朝特有の静けさ。俺以外誰もいないこの空間。
薄いカーテンから柔らかな光がさしこんでいて、そんな一瞬が忙しさに埋もれたこの俺の心を癒してくれる。思わずほころぶ口元を抑えて、数多ある本の列から自分の読みたいものを物色していく。あ、あの本読みたいな。かなり高い位置にあるその本を取るため近くにあった椅子をとりその上へ乗る(決して俺の背が低いからとかそういう理由で本が届かなかったわけじゃないそれだけは先に言っとく)。椅子に乗って背伸びしてるにも関わらず取れない本にだんだんイライラが募る。


「…なんで取れねえんだよ」


ヤケになってその椅子の上でちょっと飛んだりしてみる。やっぱダメ、もう1回。そんなことを繰り返しながらやっとの思いでその本まで手が届く。よっしゃ!と内心ガッツポーズしながら手元をよく見る。あれ、なんか、10冊くらい、降ってきて…る?!思ったときには遅かった。俺がジャンプしながら取ったがため、勢いがありすぎて近くの本もその勢いに引っ張られ落ちてきてしまっていた。最悪なことにジャンプの着地もうまくいかず椅子をも踏み外す。


(落ちる―――…!)


後頭部から落ちていくであろう自分の姿が、スローモーションで脳に流れてくる。きたる衝撃に耐えるためにギュッと条件反射で目を瞑った。どれほどの間そうしていただろう。しかし、想像していた衝撃が一向に来ない。あれ…?しかもなんか、柔らかいものに乗っかってるような…。背中に感じるあたたかさに不信を抱きつつ、起き上がろうとする。そしたらなんか、くぐもった唸り声みたいなのが聞こえたから慌てて振り返る、と、…………なんか俺、人下敷きにしてるんですけど。


「っ、お怪我は、ないですか?」
「いや、俺は全然…って!お前人の心配してる場合かよ!つーか…俺を助けるために、こんなこと?」
「はい、もっと安全に助けれたらよかったんですけどね〜」


さも当たり前とでもいうように言ってのける目の前のこの男に、呆れしか思い浮かばなかった。自分の身の危険なんて形振り構わず俺を助けたっていうのかよ。とんだお人好しすぎてまた呆れる。どうやら俺は、そんなお人好しに助けられてしまったらしい。そりゃ痛みをかんじないワケだ。


「なんかゴメン…怪我、ねえの?」
「へ?あ、僕なら大丈夫ですよ」


丈夫なのが取り柄なんで、なんて微笑みながら言うこいつの顔を、初めてちゃんと見た。とても整った顔立ちで、いろんな芸能人を見慣れている俺でも息をのむほどだった。ゆるいウェーブのかかった髪はこいつの醸し出す柔らかな雰囲気にぴったりでなんというか、きれい。ぼうっと見とれてると、いきなり目線がかち合う。瞬間、微笑みをたずさえたそのきれいな目が、大きく見開かれておどろきを映し出していた。俺を凝視している。あれ、なんか俺変なことしたっけ?そんな風に見られてる理由がよくわからなくて、ただただ首をかしげる。


「翔、ちゃん…?」


確信を含んだ声でたずねてきたそのワードに、今度は俺がおどろきを隠せない。今、こいつ、なんて言った…?冷水を浴びたような衝撃が脳に走る。そこでハッとなる。慌てて顔に手をあてるけど、やっぱりない。
そう、椅子から落ちた際に、どうやら眼鏡も落としてしまってたらしい。


「(やっべえ…!)」
「あのテレビに出てるアイドルの、翔ちゃんですよね?」
「や、えっと、あ、ああそう!そうそう!俺よく翔に似てるって言われんだよ!そうそう!」


必死に取り繕ってごまかそうとするけど、やっぱり無理があるわけで。疑いの眼差しが痛い。相手は確信を持ってるゆえこの状況を覆すのは困難であることを悟る。ああなんで眼鏡落ちちまうんだよ…!こんなことなら多少怪我してもいいから助けなんてないほうがよかった!


「………お前の言うとおりだよ」
「え…じゃあ、」
「そ。“俺”と、“アイドルの翔”は同一人物」


観念して正体を明かす。たった3ヶ月。たったの3ヶ月でバレてしまうとは。やはり甘くないなって痛感した。芸能人が普通の生活をするなんて、夢のまた夢で無理な話だったんだ。


「なあ、頼む…!このこと、誰にも言わないでほしいんだ!俺、おれ…!」
「翔ちゃんっ…!」
「は?っちょ、うげっ?!?!」


急に名前を呼ばれたかとおもったら勢いにまかせて俺に突進してきて、あろうことか抱きついてきやがった。…いやいやいやいや、この状況意味わかんねえ。なんで俺、こんな図体デカい男に抱きつかれてんだ?女の子なら感極まってこんなことしてくるのわかるけどさ、なんだこの状況は…!


「く、苦し…!し、しぬ…!」
「…ああ!ごめんなさい嬉しくって力加減忘れちゃってました」
「忘れんなよ…!おまえ俺を殺す気かっ…!」
「翔ちゃん…会いたかったです」


そんなとろけるような微笑みでこんなこと言われたら、落ちない女はいないなと心の底でおもう。女ならな。なんなんだこいつは。行動が読めなくて頭が混乱する。


「てか!さっきのつづきだけどさ、俺のこと学校の奴にバラさないでくれってやつ。マジ頼む…!俺だって普通の生活がしたいんだよ!仕事がぜんぶ辛いわけじゃないけど、ときどき息が詰まるっていうか呼吸ができなくなってきてそんで…ああもう!うまく言えねえけどとにかく俺は、ここを失いたくない!」


やっと見つけた、俺の心休まる場所。見失いそうな自分を思い起こさせてくれる大切な…大切な場所なんだ。


「だから、」
「誰にも言いませんよ?」
「…え?」
「翔ちゃんのこと誰にもバラすつもり、ないですよ?」


あっさり言ってのけるもんだから少し拍子抜けする。バラすつもりはないって、そう言ったよな…?正体がバレてあせっていた俺の心に、だんだんと安堵感がひろがる。バラさないとか言ってても口先だけかもしれない。でもなんとなくこいつは信頼できるような気がした。まあ見ず知らずの人のために体張れるくらいのお人好しだしな。とりあえずお礼を言おうと口を開いた。


「あの、」
「―――ただし、条件があります」
「…は?」


真剣な面持ちで言われたその言葉を理解するのに数十秒。ああ、そっか。どうせサインくださいだの写真いっしょに撮ってくださいだの、そういう類の申し出だろう。会いたかった、と俺に言って抱きつくくらいだし、こいつが俺のファンなのはまあ間違いない。そんなことで秘密を守ってくれるならお安いご用だ。そう考えながら、次につづくであろうその言葉を待つ。


「条件というのは」
「おう」
「学校にいる間だけ、僕のものになってください」


……はい?


「…え?」
「だから、僕の恋人になってくださいって言ってるんです」


今日一番のきれいな笑顔でそんなこと言われたって、ああはいそうですかなんてならない。なんだこれ、俺告白されてんの?!しかも男に?!思考が追いつかなくてただただ呆然とするしかない俺。そんな俺に構わずにこにこ笑いつづけてる目の前の奴。


「俺、男なんだけど?」
「はい、知ってますよ」
「…まさか、おまえ、女なの?」
「僕が女性なら翔ちゃんをあんな風に助けるのは不可能ですよ」


それもそっか…って、納得してるばあいではなくて!


「なに血迷ったこと言ってんだよ!俺と、おまえが?恋人?え?意味わっかんねえ!」
「えー。いいんですか?言いふらしちゃいますよ?」
「…!汚ねえぞテメエ…!」
「だって、」


運命なんですよ、って。ずっとずっと好きで、でもテレビの中の人で、住む世界が違って手に届かない人だとおもっていた人が目の前にいるんですよ?って。


「ほんとうに好きなんです、翔ちゃんのこと」
「…っおまえ、」
「じゃあ、これからよろしくおねがいしますね?」


うっとりと、そりゃもううっとりした顔で俺を見つめるその目には確かに恋の色が映し出されていた。やべえ…もしかしなくても俺、とんでもない奴に捕まっちゃったんじゃねえかな…。


こうして俺は学校ではこいつ(名前は四ノ宮那月っていうらしい)のものになる、という意味不明な秘密の恋人関係を強いられることとなった。はっきり言おう。男と付き合ってる時点で普通の生活ができるとはおもえねえよ!




そんなかんじで、恐怖の恋人ごっこ生活はまだ始まったばかりなのである。









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続きません(何)
片一方が芸能人設定たぎります!余談ですけど翔ちゃんがくるくるの髪の毛にしてたり伊達眼鏡してたりっていう変装ファッションがかきたかっただけです(おい)





20110911





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