言ってしまえば陳腐

言葉には、重みがあるのです。だから軽々しく物事を語るのは、私の趣味ではありません。
それはいかにも日本らしい主張ではあったが、一見すると、言い訳にも聞こえる。何の。それはこういうことだ。
「日本、スキ」
とことんマイペースなギリシャと昼寝に勤しんでいるときだった。日本はあまり眠れなくて、横になりながら、隣の健やかとも表現したい寝顔を眺めていた。ときおり、その髪や頬に触れようとして、慌てたように手を引っ込めた。規則正しく静かな寝息、それに合わせて上下する肩。周りに集まってくる猫も、彼も、何やら可愛らしいと思っていた。
しかし、急にむくりと起き上がったかと思えば、こうだ。これは、そう、西洋人の特徴なのだろうか。とりあえず、日本は平静を装い、ありがとうございます、と答えた。
「…………」
「……ギリシャさん、」
「日本は、俺のこと、スキ?」
そうきますか、と日本は返答に困ってしまった。別に困る必要はないのだ。好きか嫌いかと問われれば、もう答えはわかりきっているのだから。しかし、それをしっかり言葉にできる性格ではなかった。日本の奥ゆかしさは美徳でもあるが、時と場合によっては厄介なものだった。
私もです、とはなかなか恥ずかしい言葉ですね。
「日本、散歩に行こう」
昼寝はおしまいらしい。立ち上がって伸びをしたギリシャが、日本の腕を引っ張った。
「夢を……見たんだ。日本と、俺と、馬鹿トルコがいた」
「あなたの夢に、私もいたとは」
「あぁ、俺は……幸せ。でもトルコは邪魔だった……」
でも、私は今、あなたと二人ですよ、なんて。簡単な一言を口に出来ない日本だから、それも言えない。
ギリシャの指が日本の指に絡まった。気恥ずかしく、日本は直視できなかった。構わず、ギリシャはそのまま歩いていく。その隣を、日本はやや早足で歩く。
「ギリシャさん、どこへ行くのですか」
「もっと……寝心地のいいところ」
「また寝てしまうのですか」
「次は、日本も一緒に」
にかっと、ギリシャが笑っていた。意外と、珍しい顔だった。

地中海の白い景色に馴染んでいく。日本はギリシャの隣に寝転んで、彼の広い背中を見つめていた。そっと、右手を伸ばしてみた。少しためらって、ようやく背中に触れてみた。そうして、声に出さずに呟くのだ。伝えられなかった「すき」の一言を。すきです、ギリシャさん。
伝わらないですよね、伝わっていたらどうしましょうか。




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melt.



 

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