頭がおかしいらしい

きっかけはフランス兄ちゃんの何気ない一言だった。最近のドイツはいつにも増してつれない、て。
そうだったかな、と最近の記憶を探ってみた。
先週末、ドイツの家に押し掛けたら、事務作業ばかりで相手にされなかった。突き放されて、見かねたプロイセンがフォローしてくれたんだ。
火曜日は会議で顔を合わせた。話しかけようと思ったら、スペイン兄ちゃんとギリシャがドイツに駆け寄ってったんだ。ほ、ほら、景気ね。俺だってよくないし、兄ちゃんみたいに詰め寄れればよかったんだけど、目があったら、反らされた。え。
水曜日、会議二日目。今日こそ、と思ったら、今度はロマーノ兄ちゃんに引っ張られた。ドイツを呼んだら、叫ぶな、と叱られて、そのまま。
たしかに、ドイツがつれない。急に不安になってきた。もしかして、嫌われたかな。背筋がぞわぞわしてきた。休暇の日にも、俺の家にドイツは来なかった。
俺は、たしかに、ドイツの恋人、のはずなのに。前に恋人らしいことをしたのなんて、いつだろう。
「あー、わかっちゃうんだよなぁ」
愛がないと生きていけないよな、とフランス兄ちゃんが言った。激しく同感します。
「……あれ?」
「どうした、イタリア」
「兄ちゃん、ドイツが好き、」
「お前のをとったりはしねーよ、そう不安なるなって」
じゃあ、フランス兄ちゃんが言うのは、また別の人か。誰だろ。
でも、今はそれよりもドイツのこと! 本当に、ドイツに拒否されていたらどうしよう。もしものことを考えたら、すぐに頭が真っ暗になった。思わず泣きそうになる。嫌だ嫌だ、ドイツと離れたくない。
「あぁもう、お前ってやつはさぁ。呆れるくらい素直で、羨ましいね」
慰めるように撫でてくれる兄ちゃんの手は、すごく優しかった。これがドイツだったらな、もっと、幸せなのに。まだ涙が止まらない。
「……しょうがないなぁ、おにいさんが協力してあげようじゃないの」
 ――本当はおにいさんこそ助けてほしいんだけれどね

できるだけ音をたてないように、部屋のドアを開けた。いつもならとっくに寝ている時間なんだけど、今日は特別。せっかくフランス兄ちゃんが用意してくれた機会なんだから、さすがの俺も無駄にはしないって!
ちなみに、ちなみにかどうかはわからないけど、ドイツの部屋です、ヴェ。
ベッドに近づいて、隊長の寝息を確認。寝てるであります、よし。
そっとベッドに乗り上げて、ドイツの顔に手を伸ばし、

「何のつもりだ」
何が起こったのか。手をとられた俺は、いつの間にかベッドに押さえつけられて、ドイツの下にいた。首にドイツのゴツい手、思わず喉が動いた。でも、でも。
久しぶりにまっすぐ視線の合ったドイツに、俺はこれ以上ないくらい、嬉しくなっていた。きっと場違いなんだけど。
「答えろ、イタリア」
「……よ、夜這い」
「覚えておけ、貴様。どうやって入った、鍵は閉めたはずだ」
「フランス兄ちゃんが、」
「フランス? まさか、兄さんか」
深いため息を吐いて額を押さえるドイツは、どことなく色気があって、どきりとした。不謹慎かとは思ったけど、これは仕方がない。眉間によったシワとか、怖いけど、ドイツならそれくらいがかっこいいかな、なんて。
肘をついて、顔をドイツのそれに近づけようとしたら、慌てたように肩を押された。痛いよ、さすがに。ドイツったら力強いし。視界にはドイツしか映っていなくて、ちょっと気恥ずかしくなった。でもそんなこと、構ってられない。無理矢理にでも顔を近づけようとしたら、今度は口を手で押さえられた。
「……なんなんだよ、嫌なのかよ」
「イタリア、いいから、おとなしくしろ」
「嫌だ、嫌だね」
寂しかったんだよ、構えよ。拒否すんなよ。言いたいことは山ほどあった。でも、だ、イタリア人としては、言葉より雄弁なものがあるのさ!
顔がダメなら、と俺が考えたのは至極単純なことだったと、後々思った。
まだ動かせる足を、膝で仕掛けた。言わなくてもいいよね、ちょっと、いや、かなり恥ずかしいかな。言うとだよ、あそこをだ、ヴェ。
「い、イタリア!」
ドイツの慌てっぷりに気をよくした俺は、隙をついて唇を奪ってみた。
「〜、知らんからな!」

まぁ、俺の……フランス兄ちゃんの作戦勝ちというか。



翌朝、俺が目覚めたら、もう、ドイツの姿はなかった。代わりに、部屋の外からプロイセンの悲鳴が聞こえた。理由はわかるから、心で謝りつつ、俺はまた枕に伏せた。眠い。それに、幸せな気だるさだった。包まる寝具からはドイツの匂いがして、思わず顔がにやけちゃった。








 

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