ノートにはさんだラブレター

これの日本さん。




ちょっとだけ、羨ましい、と思った、けっして口には出さないけれど。日本は次の授業のテキストを用意して、中国の席に目を向けた。授業前に教室を飛び出した彼は、まだ戻ってこない。このぶんだと、ラブレターを片手に、二人で楽しんでいるのかもしれない。笑えない。
ラブレター、便箋の内容は見せてもらえなかったが、きっとラブレターだ。そんな気がする。下駄箱に入っていたり、机の中に入っていたりする、ラブレター。憧れないわけではない。その程度に考えているだ、望みはしない。
(それに、オランダさんは、そういう人ではないですし……)
もしも、だ。もしオランダが日本へラブレターを書いてくれるとしたら、どんな文面だろうか。彼のことだ、きっとシンプルで、余計なことは書かないのだろう。一言、好きだ、と。そこで日本は驚いた。何を考えているのだ、と。自意識過剰ではないか、これではいけない。
「悩み事でもあるのか?」
気づくと、イギリスが目の前にいた。日本は急なことで驚いたが、イギリスの様子を見ると、いきなりというわけでもなさそうだった。だいぶボーッとしていたらしく、イギリスは心配そうに日本を見ていた。まさか、ラブレターについて考えていたとは、絶対に言えない。思わず顔が赤くなり、気恥ずかしさで俯いた。
「……熱でもあるのか?」
「違いますよ。心配いただきありがとうございます」
「何もないなら、それでいいんだが」

「眉毛はうっといなぁ」
踵を返そうとするイギリスに、フランスは後ろから抱きついた。からかうように、脇腹を肘で突いて、クスクスと笑う。当然、イギリスが文句を言うが、フランスは全く聞こうとしなかった。
「日本、オランダに対して何か不満でもあるんだろ。図星だな、ふふ、何ならお兄さんに鞍替えしとく?」
それはイギリスに抱きつきながら言う台詞ではないと思った。日本は困って苦笑した。しかし、文句を言ったばかりのイギリスが、今度は赤くなってフランスの髪を引っ張る。痛い痛いと叫びながら、楽しそうな顔をするフランスに、日本はため息をついた。してやられたのだ。

帰りはオランダと一緒で、日本は隣を歩きながらもやもやと考えていた。
あのあと、授業ぎりぎりで戻ってきた中国に、日本は内容を尋ねた。しかし中国は口を割らず、照れながら、誤魔化そうと笑っていた。やはりラブレターだ。どうぞ、お幸せに。なんだか少し、気に障った。らしくない、頭を冷やせ。今日はどうかしている、落ち着け。
「……日本?」
「あ、はい」
「何か、あったんか」
高い目線から、怪訝そうに見下ろされて、日本はどきりとした。何もありませんよ、と答えれば、オランダは追及せずに前を向くだろう。いつもならそうする。そうするのだけれど、日本も割りきらないこの気分を、どうにかしたかったに違いない。
「中国さんがラブレターをもらったそうで」
日本の口から聞き慣れない言葉が出て、オランダはますます不思議そうに彼を見た。日本も苦笑した。言わない方がよかったのだろうか。
「それは、嬉しいものなんか」
「……さて、どうでしょうね」
「日本が、」
「はい?」
「日本がそう言う時っちゅうんは、たいてい、答えは決まっとるんじゃ」
しれっと言い放ったオランダに、日本は思わず赤くなった。彼を見上げても、いつも通り、前を向いて歩き始めていた。まったく、彼は日本より一枚上手なのだ。これは、期待してもいい、ということだろうか。

翌日、購買でパンを買ってから教室に戻ると、日本の机に、オランダがいた。日本が戻ってきたことに気づいたオランダは、構わずノートに何かをはさんでから、楽に手を振って教室を出ていこうとした。そんな彼を、日本は慌てて引き留めた。腕を掴むなど、そんなあからさまな行動、非常に珍しかった。
「……あ、あとで確かめさせていただきますので、お昼、一緒にいかがでしょう」
「あいつら、イタリアやドイツとは、どうするんや」
「今は、あなたが優先、ですから」
気恥ずかしさで吃りながら日本が言うと、僅かだが、オランダが笑った気がした。それが何となく嬉しくて、二人で教室を出る足取りは軽かった。できれば、また明日、一緒にお昼を食べよう。また明日、明後日も。舞い上がっていく桃色の思考は、日本にも止められなかった。声に出したら引かれるだろう。それでもいいかな、と思った。

「お兄ちゃん、ロマンチストやねん。な、嘘やないやろ?」
「そう、ですね……」
想像を越えた手紙の内容に、ドン引きしたのは日本だった。






etoile

一枚どころか二三枚上手?な蘭兄ちゃんは、「好きだ」の一言で済ませなかったそうな。



 

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