ラブレター、君に届きましたか?

まただ、と中国は顔をしかめた。テキストを開くと、可愛らしい封筒が飛び出した。一応、封筒を開ける前に、軽く触って中身を確かめる。固さを感じて、まただ、とため息を吐いた。いい加減、うんざりだ。ハサミで開封すれば、中身は予想通りのものだと気づく。
「私が棄ててきましょうか」
事情を知る日本が、声をかけてくるが、中国はそれを断った。
中身が飛び出てこないように、小さく封筒を折り畳み、セロハンテープで頑丈に封を閉じた。

棄てるのではなく、丁重にお返しする。それがいつの間にか定まった約束事だった。
「カミソリは、おかしいある」
立ち入り禁止の学校の屋上でも、入り込むのは簡単だった。他には誰も来ないから、会うには都合が良かった。
「でも、やっぱり、そのくらいしか思い浮かばないんだ」
はにかむロシアに、可愛さは感じなかった。代わりに、蹴り飛ばしたくなった。それができたら、中国のストレスはたまらない。蹴り技を受けても交わしても、こいつは笑ったままだろう。おそろしい。
「あのままきみが怪我でもしてくれたら、傷つけた僕のこと、嫌でも考えるでしょう」
「……なんでそんなに際どい思考してるあるよ」
中国にとっては頭が痛くなる話だった。今でこそ、封筒を受け取っても無傷で開封できるが、最初の頃は危なかった。大怪我はしなかったが、それなりに冷や汗はかいた。あのときの日本の顔、なかなか珍しいものだった。おもしろがって写真を撮るやつもいたが、中国はおもしろくもなんともない。
さらにいえば、ロシアの思惑通りに進んでいくのもおもしろくない!
悔しいが、中国はもう陥落させられていた。何でだ、どうした、自分。どうしようもない、わかっている、自分。
何で百面相しているの、と伸ばされたロシアの手を、中国は軽く払った。ほっといてくれ。

ぽて、とノートの間から床に落ちた封筒に、中国は思考が停止した。床のシンプルながら可愛らしい柄の封筒を見て、日本は顔をしかめた。またですか、と拾い上げた日本も、思考が停止した。二人で互いに顔を見合わせる。中身、カミソリじゃないんだけど。生唾を飲んで、封筒を中国が慎重に開けた。
「……何をなさったのです、中国さん」
「な、何も身に覚えがねぇある……!」
やはり封筒の中にカミソリはなく、代わりに、封筒と同じ柄の便箋が入っていた。初の、便箋だ。再度、二人は顔を見合わせる。
「読んでみれば、いいのではないでしょうか」
「ちょっと待つよろし!」
封筒と便箋を持って、中国はダッシュで教室を飛び出した。行き先は、言わずもがな、屋上だった。

そろり、そろり、中国は二つ折りの便箋を開く。便箋の真ん中に、キリル文字が並んでいた。読みづらい。ロシア語か、そうだ、ロシア語だ。
「……あ、なんで?」
「母国語じゃないけど、意味は通じてるみたいだね」
いきなり影になったかと思えば、背の高いロシアが頭上から声をかけてきた。中国が咄嗟に逃げようとしたのを、ロシアはがっちりと掴んで、腕のなかに閉じ込めた。ピンチだ、それも絶体絶命の。便箋を握ったまま、中国は震えた。屋上から見える空は快晴で、なのに、なのに、なんなんだこの状況は!
「最高のシチュエーションだね、ね、中国君」
「……やめるある、わけわからねぇある」
「どうして?」
裏のない、純粋に疑問の声をあげるロシアに、中国は困惑した。再び、便箋に目を向ける。やっぱり読みづらいその文字の列に、中国は理解が追い付かない。だって、だって、こんな意味の言葉、ロシアから聞いたことがない。
「姉さんがね、教えてくれたんだ。でも、僕はまだわからなくて、そうしたら姉さんが用意してくれた。ちゃんと、書き直せばよかった。そのまま君のノートに挟んで、僕も余裕がなかったのかも」
抱き締める力が強くなった。
「……中国君、ねぇ、返事してよ。中国君が思っていること、僕に教えてほしいんだ」
今ならきっと、伝わるから。
きっとロシアに余裕がないのも本当だ、と中国も思い始めた。これは、彼こそがロシアに伝えなければ、終わらないし、始まらないのだ。観念したように、少し、勇気を出した。中国はゆっくりと、できる限り、背中のロシアを向いた。自分では見えない顔は、真っ赤であったに違いない。
「……我はずっと、聞きたかったあるよ、この言葉」
あいしてる、とロシアから中国へ。遠回りだったかもしれないが、何はともあれ、伝わったことに違いはなさそうだ。
今度は、ちゃんと、面と向かって、言えますように。よく晴れた日の屋上で、赤い顔をした二人は同じことを考えていた。







with love and affection for my dear

僭越ながらおぞんさんへ、いつも萌えをありがとうございます



 

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