英と仏





君と走るエデンの坂道



きっと煉獄では厳しい裁きが待っているはずだわ。そういう彼女の言葉を、イギリスは否定しなかった。彼女は市民を何人も殺した。軍人の戦争でも、宗教の対立でもなく、ただ一人で、この惨事を引き起こした。恨み言、勝手な嫉妬で及んだ犯罪に、イギリスは目を背けるわけにはいかなかった。
「まさか、あなたが私を止める人だとは思わなかったけれどね」
「俺は、わかっちまったんだ。このまま放っておくわけにもいかないんだ」
彼女の狂気は、知らぬ間に、飛び火していたようだ。火種は消しておきたい。イギリスだけでなく、警察も陛下も、そう考えていた。けれど、イギリスには彼女を煉獄まで案内することはできなかった。
(許すことはできない、苦しめばいい)
やがてイギリスに見つかった彼女は、どこへともなく姿を消した。イギリスは安心していた。悲惨な事件も終息し、長い長い時間が過ぎていく。そしてイギリスは彼女がもういないことを、知っていく。だんだんと許すわけでもなく、彼女を忘れていく。彼女と関わることは、もうない。

大英帝国に栄光を。
安寧を、平穏を、イギリスは手にしようとしていた。しかし、それもまだ訪れそうにない未来であることを、誰もが知っていた。声には出さない、希望は失っていないから。
一時、会談を抜けたイギリスは、ぼぅと空を見上げた。気持ちの良い、とはお世辞にも言えない。むずむずとして、そして紳士とは思えない、おおきなため息を吐いた。
「よぅ、眉毛。やっぱり、しけた面してるねぇ」
イギリスが顔を上げると、隣人が腹の立つ顔で立っていた。小綺麗なコートを羽織るイギリスに対し、フランスの軍服は若干薄汚れていた。彼らしくもない格好に、イギリスは目を背けた。
「もう少しで終わるんだね。お兄さん、お話には参加してないけれど、いいものもらっちゃったわ」
「……お前は元気だよな」
「そう見えるうちは、お前も元気だぜ」
皮肉を込めたような口ぶりに、イギリスはフランスを見た。彼は避難するような顔をした気もしたが、それも一瞬だった。すぐにいつも通りの、フランスだった。そうだ、こいつも、被害を被っているのだった。
「俺もお前も、さらに忙しくなるな」
「あぁ」
「また会えなくなるな」
「それはよかった」
目の前を頼りなさそうな女が過ぎていった。イギリスは彼女を知っている。あの容姿で、意外に強かなのだ。油断ならない、そんな雰囲気を持った人だ。
ふと、いつかの殺人犯を思い出した。今は戦時中で、何人もの人が殺し殺されている。ただ勝利のため、生きるため、戦線に出向く。うんざりだと思った。もう痛いのは懲りた。それでも終わらない。どこかへ駆け出したい気分を、イギリスは払いのけた。今更ながら考える。彼女は自分の保守のために、妬みで他の女を殺した。今、自分たちは遠からず、生き残るために戦っている。あの頃は、戦でもないし、許されることではない、と思った。許されないのは、今だって同じではないか。イギリスはあの女性と、できることなら関わりたくなかったのだ、怖かったのかもしれない。
ばかばかしい、と口に出した。何を考えているのか、よくわからなくなった。
「お前がどうしたのか、俺は知らないけどさ、何なら手助けしてやってもいいんだぜ?」
お前よりお兄さんの方がたくさん経験があるし、などと言うフランスを、イギリスは弱々しく蹴飛ばした。
「……しあわせに、なりたいね」
「……そう、だな」
終戦へと向かう日、二人は遠くて近い未来に、思いを馳せた。










Thanks etoile 理屈







 

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