ビーチサイドにて


「ワイちゃん、こんにちは。今日はいい天気だネ」
「あー、もう、どうしてこう、ひとの休日を邪魔するかな」
スケッチブックを持ってやって来たのは兄貴の自然公園で、ビーチを眺めながら絵を描いていたのだ。兄貴もいないし、今日はワイの趣味の日だったのだ。波の音が響くここは、サーフィンを楽しむ人も多く、観光地でもあった。少し歩けば、コアラの生息地で、運がよければ高い木の上で寝ているところを発見できるだろう。ただ、ずっと上を見上げるので首が痛くなるのが難点だ。
そんなところに、セボルガはふらふらとやって来た。後ろから影が差したかと思うと、きれいな絵だネ、と見知ったミクロネーションの声が降ってきた。
「だいたい、何でここにいるのさ。ここは兄貴ん家で、」
「南半球はあったかそうだったから」
「はぁ?」
「ヨーロッパは寒いんですよネ、冬だから。そう言ったら、ハットリバー君が連れて来てくれたわけなのです」
ちょっと気温差が激しいけれど。
あの先輩面の男の、さらに笑みを浮かべた顔を、ワイは思い浮かべて、黒の絵の具で落書きしてやった。セボルガは観光に来ているだけだろう、邪魔をするために来たわけではない。ワイはそれで我慢した。きらきらとしたあの顔が真っ黒だ、おもしろかった。
「その絵は、どうするの」
「どうする、って、別に、どうもしないよ」
「そうなのかい、もったいない」
ビーチを描いたワイの絵は、もう完成していた。今は水彩絵の具が乾くのを待っていたのだ。今日の一枚は、ワイも気に入った。いつもより、ちょっとうまく描けたのだ。白く泡立つ波、砂浜のワゴン、向こうまで続く緑の木々。
「よければ、もらってもいいかな」
「え、ちょっと、」
「スケッチブックに挟まれたまま誰にも見られないのは、さびしいヨ」
にっこりと笑ったセボルガは、さすがラテン系の美形だった。これは、たぶん、絵を誉められたのだろうか。ほら、こいつもナンパ男だから、しかも妙に成功率の高い。ワイは顔をむずむずさせながら、遠慮がちにスケッチブックから絵を切り離した。それを無言で、おずおずとセボルガに差し出した。
「アリガトウ、帰ったら、家に飾るからネ」
「……どうも」
素直な嬉しさと、気恥ずかしさで、ワイは余計に暑くなった。気温が高いのに、余計に。
「……ご飯」
「うん?」
「一服、いい店があるから。お腹空かないの?」
「それはいいネ。絵のお礼に、僕がご馳走するから」
日差しの強いビーチを、ワイは少し駆け足で歩いた。後ろを鼻唄混じりにセボルガが着いてくる。顔は見えないから、声に出さずに、ワイは笑った。今日はいい日だ。





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場所はね、私がオーストラリアで実際に訪ねた場所のイメージ。ただ、具体的にどこから見て、絵を描いていたのかは謎。場所もワイ公国からはけっこう離れてるしね。



 

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