ドイツさんが万国に振り回されるだけの話

会議の最中も、終了後も、こいつらは決まって騒がしい。ドイツは眉間にシワを寄せながら、ロビーでコーヒーを飲んでいた。少し離れたところで、隣国フランスがイギリスに絡んでいた。そうだ、自分はあいつと仕事をしているのだ。自然とため息が出た。心配した日本が声をかけてきた。すまないな、と言ってから、日本が持ち出した話題は、自動車産業についてだった。話がスムーズで、助かった。しかし、後ろの声が騒々しい。
「イギリスぅ!」
「気色悪い声で呼ぶな、馬鹿」
「つれないなぁ、お兄さん、ちょっと寂しいんだけど」
「キモい」
日本の話を聞きながら、ドイツはそちらへ目を向けた。目を丸くした。フランスが、その白いジャケットの前に、やたら洒落たデザインのメイド服を手にしていた。何事だ、今は会議の休憩時間であり、終わったわけではない、パーティーはまだ始まっていない! ドイツの視線に気づいた日本が、あぁ、と声を出した。「フランスさん、持ってきていたんですね」そうだ、二次元オタクだった、こいつは。ドイツはふとミュンヘンが恋しくなった。ビール飲みたい。
「イギリス、着て着てー」
「ふざけんな、髭!」
によによと、フランスが愉しげに笑っている。対してイギリスはみるみる顔色が曇っていく。知る人が見れば、ただの現役時代の顔だ。無論、ドイツは知らない。
なになにー、どうしたのー。てってとイタリアがやってきた。自分より先にフランスに駆け寄ったのが、ドイツは少々気に障った。それだけのことであり、咳払いをし、大人気ない気持ちを払った。日本が、お察しします、と気遣ってくれる。実は恥ずかしい。
「よぅ、イタリア、お前はいい子だなぁ、ふふふ」
「ヴぇ?」
「どっかの眉毛と違ってお前は素直で可愛いからなぁ。兄ちゃんの言うことは聞けるもんな」
「ヴぇー?」
「これ、着てくれるか」
フランスがイタリアに差し出したのは、そう、日本製メイド服だ。ドイツは声を失った。ちょっと待て、思い止まれ、イタリア、というかフランス! フランスはイタリアに耳打ちし、イタリアはそれを聞いて、ほのかに頬を染めていた。そして言ってのけた。
「うん、俺、着替えてくるよ!」
何を吹聴したぁ! 顔の険しいドイツと、フランスを見比べて、日本はあらあらと笑っていた。イギリスがドイツに目を向けて、先ほどまでの険が抜けた、不安げな顔をしていた。
「お、おい……」
「お兄さんから、ドイツへのね、プレゼントさ」
こいつ、わかってやっていたのか。よし、フランス殴る、もしくは背負い投げだ、大きめのソファーがクッションになるし。
「フランスさん、カメラはお持ちですか。あいにく、ホテルに忘れてきてしまいまして」
「モチロン、もとはと言えば、日本の計画だしな」
ドイツは日本を見た。恐れ入ります、実にすみません。日本の口が、そう動いていた。貿易も考えものだな!

ばたばた、と走ってくる足音が誰かを、皆が知っている。イタリアが着たら、まぁ、可愛いのだろうな。着替えに行くイタリアの後ろを、ハンガリーが駆け足で着いていったのをドイツは確認した。化粧も施されているのだろう。
「ドイツ、ドイツー!」
こういう邪気のないのが、一番困るのだ、気恥ずかしいという点で。後ろがあまりにうるさく、フラッシュの光とシャッターの音で、ドイツは我に返り、イタリアを抱えて走り去った。当然、このあとの会議にドイツとイタリアの姿はない。当然、まとまるものもまとまらない。結局、会議後のパーティーが今日のメインだった。

「お、イタちゃんやんか、どうしたんや」
パーティーの最中に一人現れたイタリアに、最初に気づいたのはスペインだった。会議中もギリシャと「お互い大変やんなぁ」から始まって「猫可愛いわぁ」に発展する会話をしていた彼は、おそらくイタリアとドイツが揃っていなかったことにも気づいていないだろう。スペインの後ろで、ピッツァにワインを食べ漁っていたロマーノが、苦い顔をした。ロマーノはもちろん気づいていた。だからこそ、気にくわなかったりする。
「おい、ヴェネチアーノ」
ぶっきらぼうに、ロマーノが弟を呼んだ。
「兄ちゃん?」
「ジャガイモ野郎はどこにいやがる」
「ドイツなら、パーティーには出られないって、先にホテルに戻っちゃった」
「けっ、つまんねぇな」
ロマーノがドイツを捕まえて何をする気だったのか、イタリアにはわからない。ドイツが会場内にいないと知り、ロマーノはまたテーブルの料理に手を出した。食欲がいつもに増して旺盛で、きっと今日の会議(まともな話もなかったが)で疲れたに違いない。隣でスペインがロマーノに水を差し出していた。ワインの飲みすぎか、心なしか顔が赤かったのを、彼は見逃さなかった。
「よぅ、イタリア、お帰り」
フランスがによによしながら、近づいてきた。助言というか、何というか、まずイタリをそそのかしたのが彼だ。メイド服に着替えて、その後を聞きにきたのだろう。後ろから日本とハンガリーも寄ってきた。誰も知らない、ドイツと二人の時間を思い出して、イタリアは幸せそうに笑っていた。

一方で、今日の日程がすべて終わり、多くの国が宿泊するホテルでは、ある部屋の前にオーストリアとプロイセンがいた。ある部屋とは、もちろんドイツの部屋だ。
「ヴェストー、飯だぞー、飯ー」
「もう少し、しっかりと喋りなさい、プロイセン」
「眠いんだよ、俺様は。それに、ヴェストなら大丈夫だろ」
「いいえ、ドイツに倒れられたら、私が困るのです」
「帰れなくなるから? 道案内なら俺がやってやるぜ、けせせ」
「うるさいですよ、お馬鹿さんが」
「何だよ、素直になっとけよ、お坊っちゃん」

「やかましい……」
部屋の中で、ドイツが余計に疲れたのは言うまでもない。会議をすっぽかした自責と、メイド服のイタリアの、あー!
翌日の会議場で、ドイツに近寄れるのはイタリアくらいだった。さすがに空気を読んで距離を置いたギリシャだったが、仕事上、向こうから、話しかけられ四苦八苦していた。それを見ていたトルコが意地悪く笑い、喧嘩に発展しそうになるのを、慌ててキプロスが間に入り、偶然通りかかったアイスランドが巻き込まれることになった。
要するに、話なんて、進まないよ(^m^)







 

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