素通りする雪


寒い、一言で寒い。シャツに上着を着て、家でだらだらして過ごしたい。シナティちゃんを抱いて、寒さを凌いで、時間になったら太極拳だ。それは聖夜であっても変えたくなかった。

「運動したら、あたたかくなるよ」
「石油ストーブ万歳」
「文明の利器にばかり頼らないで。あ、サウナならどう?」
「遠慮しとくある」
「残念」
寒がりの中国は、半ば無理矢理、外に連れ出されていた。ぐーたら生活も厭わしいと思わない中国に、ロシアは苦笑した。素っ気なくされても、一緒にクリスマスを過ごしたかったのだ。家にはウクライナやベラルーシがいる。彼女たちと仲良く……できるかどうかはさておき、一日を使うのも別にいいだろう。しかしロシアは中国を選んだのだ。
「寒い寒いと思ったら、雪あるか。あぁ、もう……」
はらはらと雪がきれいだね、などという感想を抱く余裕は、中国にないらしい。つまらないな、と思い始めていた。
どこか店にでも入ろうか。暖房の効いたカフェで、甘いココアにデザートを注文しよう。中国が食べたいものを先に注文したら、少しは喜んで、笑ってくれるだろうか。ぼんやりと考えながら、ロシアは中国を見つめていた。
雪の降るなか、中国は手袋もしていない手を、口の前で握っていた。彼の吐息は白い。しみじみと冬を感じる姿だった。
「中国君、手を、貸して」
返事を待つより早く、ロシアは中国のむき出しの手をとった。極寒の冬を過ごすロシアも、はっとした。握った手は、細い指先まで、ずっと冷たかった。大きな手で包み込んで、そっと吐息を吹き掛けた。途端に、中国が慌てた。
「な、なにやってるあるか!」
「だって、中国君が寒がってるから」
それが当然だと言うように、ロシアはそれを続けた。
「ふふ、今日、はじめて中国君にふれたよ」
「そう、あるか」
「手を握ったのは、久しぶりだね」
「別に、それくらい、気にすることじゃねーある」
「中国君の手、小さくて、指も細くてしなやかで、かわいいね」
僕、好きだよ。あどけない顔で言ってくるロシアは、厄介なやつだと思った。限界だった、恥ずかしさが。中国はロシアを睨み付けた。睨み付けるだけで、何も言えなかった。やつはただの無邪気なやつなのだ。最終的に、何をされても許してしまうことを、わかっているからだ。
いつの間にか、体温も急上昇しているようで、雪のことも忘れていた。
特別高いわけでもなく、むしろ低いロシアの手を、中国の手が掴んだ。文字通り、掴んだ。さっさと帰ろう、家にいた方が、良さそうだ。ただ帰ってしまうのかと思ったロシアは少々不服そうだが、中国は無視して歩き続けた。
今日は頑張ってやるか、気合いいれてやるか。







 

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