くるみ割り人形と愉快な歌


「日本が、くるみ割り人形が好き、なんて言うんだよ」
「別に、普通じゃないの」
お兄さんも好きだよ、あれ。可愛らしい話じゃないの。フランスが言うと、アメリカが複雑そうな顔をした。構わず、スマホを操作しながら、コーヒーを飲んだ。
「どうしたのよ。ヒーローなら人形みたいに、日本の前でワルモノを倒してきなよ。かっこいいんじゃないの」
「適当に言わないでくれよ」
フランスはアメリカが渋い顔をする理由がわからない。うーん、と唸るアメリカに、フランスはコーヒーのカップをソーサーに置き、スマホをジャケットの内ポケットしまった。恋愛ごとでそこまで悩むことなら、興味を誘われる。そこで真面目に聞いてみた。答えにも、自然、期待をしてしまう。
「結局、何がどうしたの」
「……くるみ割り人形って、何のことだい?」
「お兄さんがアメリカをネズミの巣に放り込んであげるよ」

十二月、クリスマスシーズンだ。
親しい人にカードを送り終えたフランスは、家でワインを飲みながら、『くるみ割り人形』のDVDを見ていた。少女と人形の愉快な顔が、印象深い。きっと最高に楽しい一夜を過ごせたのだろう。もしかしたら、少し寂しかったりするのかもしれない。

「お前にもそんな情緒的な趣味があったんだな」
「眉毛と一緒にしないで。お兄さん、フランスだからね。音楽だって、オーストリアの今は、お兄さんが盛り上げたからあるんでしょ」
「興味ねぇな」
「この元ヤン!」
テーブルにクリスマスらしく、ちょっと豪華な皿を並べていく。無論、フランスが。イギリスは椅子に座って、待っているだけだ。手伝いは必要ない、とフランスが言った。イギリスが持参したスコーンは、捨てるのも悪いので、イギリスに寄せて置いた。
ただ待っているだけのイギリスの目に止まったのは、何枚も並んだクリスマスカードだった。カードの数は、毎年増えている気がする。それを順番に見ていくと、物珍しいカードを発見した。書き慣れていなそうなフランス語、妙に生真面目な字、よく見知った差出人の名前! フランスに先を越された、こっちはまだもらっていないぞ!
「あ、日本からの? はっはっ、これぞ友情の証!」
「……お前、日本を変な目で見てないよな?」
「まさか? 少なくとも今は俺のモンシェリが目の前にいるからねぇ」
「うまいやつだな、髭の癖に」
「メルシー、眉毛」
そうこうしているうちに食卓の準備が終わった。
フランスが小さな音量で、序曲をかけた。それに対し、イギリスは舌打ってそっぽを向いた。わざとらしくくるみを割ってみせた。
「俺と、楽しい一夜を過ごそうぜ」
あいにく、明日も明後日もこの調子に決まっている。




__________________

『くるみ割り人形』実はうろ覚えなんですよね。←



 

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -