スリーピング・ラバー


この人、普段はかっこいいんだよ、一応。西亜の代表国家で、昔なんか、ヨーロッパまで手を出してたり。そんなかっこいい国なんだよ。あ、ちゃんと、説明はしたからね。
そんな感じで、僕の隣で大きないびきかいてるおじさん。もはやただの酔っぱらい。酒が回りすぎてついに寝ちゃった。僕にとって大誤算だったのは、さっきまで一緒にいたはずのノーレやダンが帰ってしまったこと。知ってる店とはいえ、こんな酔いどれと二人取り残されてしまったのは、不運でしかないよ。僕だって疲れてるんだよ、物価は高いとか言われるし、パフィンはなんか転んで逆上してくるし。さっさと帰ってベッドで寝たいんだ。それなのに、おじさんはこんなとこでぐーすか寝ちゃってるから! 僕はまだ店を出ることができないでいる。はぁ。何度揺さぶっても、おじさんは起きてくれない。そしていびきがうるさい。この面、カメラで撮って、いたずらしてやろうかな、なんてね。
「アイス?」
ケータイを見つめていた僕を、低い声が呼んだ。
「スヴィー!」
「ん」
スヴィーは珍しくひとりだった。いつもならフィンもいるのにね。仕事かな、忙しそうだし。
「どした?」
「この通り。おじさんが爆睡してて、帰るに帰れないんだけど」
「……なして?」
「?」
「置いてってけど、てぇして問題ねぇんでね?」
あ。

気温は暖かいのに風が強い。せっかく直した髪が、また絡まっちゃうんだよね。手で押さえるのも面倒だし。とりあえず、薄地のジャケットを羽織って外に出た。
しばらく歩くと、もう見慣れたおじさんと目があった。やっぱりあの仮面、うちじゃ目立ちすぎる。どうにかしてほしい。
「よぅ、坊っちゃん。調子はどうでぃ」
「別に、普通だけど」
「そうかい、そりゃ結構だ」
かっか、と笑うおじさんに、注目が集まってきた。みんなが僕を見てくすくすと笑うんだ。もう、やめてよね、ほんと。結局、何しに来たのさ。そう言いかけたんだけどね。
「心配してくれて、ありがとよ」
スヴィー!

「置いてってけど、てぇして問題ねぇんでね?」
「……でも、放っておけないよ」
「……そか」
今だけは、子供扱いするスヴィーの手に、歯向かえなかった。





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【トルコアイスを書いてみた】

あ、あの、最初だから、許して。次があれば、ちゃんとやるから。



 

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