両手いっぱいのお菓子


見た目は、まさしく、良家のお嬢さんだったのだ。ただ醸し出す雰囲気と頭のくるんは、ごまかせなかった。
「イタリア、何をしている」
「ヴェー、ベッラに変身したんだよ。フランス兄ちゃんが手伝ってくれたんだ」
「その才、ぜひとも違うところに使ってもらいたいものだな」
「さらけ出した結果が今の兄ちゃん家?」
「……違いない」
あの夫人すごいよな、さらけ出してるよ。

女装イタリア、可愛い。もともと細いから、ドレスがさほど違和感ない。まじまじとイタリアを見て、ドイツは赤面した。ここに来るまでにもたくさんの菓子をもらったらしい。ソファーに座り、その菓子をうまそうに食べていた。
「やっぱり、ドイツはお菓子がおいしいね」
口許にチョコレートがついていた。食べることに夢中で気がついていないのか、そのままついたままだ。とってやるべきかどうか、ドイツは思案した。さわってしまってよいのか。どうすべきか。考えているうちに、顔が険しくなっていた。そういう質なのだ、悪気はない。それでも、気づいたイタリアは食べるのをやめて、寂しそうにドイツを見た。
黙るくらいなら、何でもいいからもっと話してほしい。話せないなら、何か行動で示してほしい。沈黙は一番つらい。
「……ドイツ」
意を決したイタリアがドイツを呼んだ。ドイツが顔を見上げると、すぐ近くにイタリアの顔があった。驚いて若干引いてしまうドイツの肩を、イタリアが掴んだ。もう片方の手で、チョコレートをつまんでいた。何をするつもりだ、と言うより早く、チョコレートを唇に押し付けてきた。
「甘いもの食べると、元気が出るよ、ほら」
あぁ、もう!
不安げで、かつ大胆な娘の姿は、少々目に毒だった。

夜半、出かけていたプロイセン、オーストリア、ハンガリーが帰ってきた。ライトが点いたままのリビングには、誰もいない。男二人は不振がったが、ハンガリーは勘づいたらしく、一人にまにまと笑っていた。楽しい楽しい。
かすかに聞こえた声に、オーストリアとプロイセンがどぎまぎするまで、あと少し。
「あら、チョコレートだわ」
ハンガリーのあやしい発言を二人は聞かなかったことにした。
「……坊っちゃん、家に帰れ、ついでに俺様を連れていけ」
「仕方がありませんね。ハンガリーはどうしますか」
「もう少し、ここにいます」






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メランコリーは逃げ出した



 

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