合い言葉は「お菓子をくれなきゃ、イタズラするぞ!」


呼び鈴が鳴って、イギリスが不機嫌そうに舌打ちした。
「顔つきが現役時代に戻りつつあるよ、イギリス」
鏡を見てきなよ、というフランスの言葉も聞こえていなかった。
ここはフランスの家で、呼び鈴を鳴らす相手もフランスの客だ。律儀に出ようとするイギリスを制し、フランスは玄関へ走った。今のイギリスを人前に出したくなかった、怖すぎる。
はいはーい、とフランスがドアを開けると、そこには魔女がいた。
「トリック・オア・トリート! フランスさん、お菓子お菓子お菓子!」
「ボンソワール、セーちゃん。焦らなくても用意してあるから、いたずらはよしてくれよな」
「さすがフランスさん! いやぁ、イギリスさんのところに行かなくてよかったですよ」
にこにことお菓子を嬉しそうに受けとるセーシェルに、フランスは冷や汗をかいていた。背中にずきずきと突き刺さってくる。言うまでもなく、イギリスの呪いだ。
「セーシェル……」
ひぃっとがらりと変わった悲鳴が聞こえた。魔女が怯えていた。イギリスはすぐ後ろにいた。
「ちょっと、イギリス、セーちゃんがかわいそう!」
フランスがセーシェルを庇うように立つと、イギリスの視線が余計に痛くなった。
「'Trick or treat'だよな?」
嫌な予感しかしない。あの恐怖を知っているらしいセーシェルはフランスの後ろで逃げの体勢に入っていた。
「俺からも、菓子をやるよ!」
皆様、セーシェル共和国の無事をお祈りください。

イギリスの食文化は、フランスのそれと比べると、だいぶ寂しい。それは確かだ。しかし、本人はそれがおいしいと思って過ごしているのだから、何も言えない。
急いでモナコを呼んでセーシェルを預かってもらったフランスは、ソファーに横になっていた。菓子を作り、イタリアの仮装を手伝い、イギリスを宥め、妹ぶんの世話をした。今年のハロウィンはなかなか充実した。
「……まぁ、その妙な独占欲は、かわいかったよ」
「うるせぇ、髭」
「訂正しとくわ。やっぱり、かわいくなぁ」
まさぐるように、テーブルに手を伸ばした。テーブルの上には、フランス製ケーキや焼き菓子が並んでいる。フランスが掴んだのは、身に覚えのない、きれいに包装されたものだった。包装には見覚えがある。フランスのショコラティエのショップのものだ。
フランスはちらりとイギリスを見た。クッションに顔を埋めた彼は、フランスと目を合わせようともしない。
「イギリス、ねぇ」
「……なんだ」
「お菓子をくれなきゃ、イタズラするぜ」
にやにやにや、フランスは楽しくなってきた。

結論、俺のモンシェリはかわいいです。





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メランコリーは逃げ出した

合い言葉は「お菓子をくれなきゃ、イタズラするぞ!」



 

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