酔っぱらっちゃってもいいじゃない


るんるん、と鼻唄混じりに、カートに次から次へと酒を乗せていく。今日はどれだけ飲んでも許される日であるらしい。国のイベントなどではなく、個人的に特別な日ということだ。後で甲斐甲斐しく介抱するであろう背の高い強面の彼を思い浮かべて、エストニアは苦笑した。見習うべきはずのモダンネイションに対しても、いまだにすくんでしまうのは、まぁ、一種の条件反射か。
「それにしても、好きだなねぇ、フィンランドは」
「エストニアほどではないって。それに、スーさんやノル君たちだっているしね」
つまりはいつもの北欧五人の面子で飲むらしい。それではあの人も介抱には回れないかもしれない。翌朝の二日酔いの風景が目に浮かぶ。一番理性的そうなアイスランドが働き回っていそうな気がする。
「あ、帰る前に、一緒に飲みに行こうか。エストニアと、エストニアのお酒に乾杯!」
「あー、フィンランド? もしかして、僕の知らない間に酔っぱらってたの?」
「そんなことないよ」
エストニアは苦笑するしかなった。しかしエストニアも酒は好きなので、断ったりはしなかった。

アルコール度数は、けっして低くない。それを立て続けに飲めば、当然、泥酔する。テーブルでいい具合にできあがったフィンランドをどうするか、エストニアは悩んでいた。もしものことを考えて、控えていてよかった、若干くらくらするけれど。
そんなエストニアの心配もあまり悩まされずに終わりそうだ。エストニアの店に、店主の見慣れない誰かが店に入ってきた。エストニアが振り向くと、そこにいたのは例の北欧の人、スウェーデンだった。あわてて立ち上がるエストニアを、スウェーデンは手で制した。
「帰りが遅ぇから、心配して、来てみただけだべ」
「あ、はい。フィンランド、ほら、スウェーデンさんが迎えに来てくれたよ」
エストニアがフィンランドの肩を揺すっても、あーとか、うーとか言って、なかなかテーブルから顔を上げない。
「もう、フィンランドったら」
「別に、構わね。ただ、フィンがいねえから、デンマークたちが待ちくたびれてる」
それは構わなくないのではないか。スウェーデンとしては、フィンランドに無理をさせたくはない。かといって、デンマークやノルウェーを酒も我慢して待っているのだから早く帰りたい。二律背反、どうしようか。どちらかと言えば、フィンランドを優先してはやりたいのだが、そういうわけにもいかないだろう。
しゃーねぇない、となぜか照れたスウェーデンを、エストニアは怪訝な目で見ていた。

「それで、結局どうなったと思いますか、リトアニアさん!」
突然ジャガイモとウォッカを持ってやって来たエストニアに、リトアニアは驚きつつも、リビングに招き入れた。やけ酒らしい。しかも親友のことで。ウォッカというアルコール度数のきついものを意図的に体に入れ、勢いがついている。これはもう、言いたいだけ言わせてやろう、と聞き上手のリトアニアはジャガイモ料理をつまみに出した。
「どうなったの?」
「スウェーデンさんがフィンランドを抱いて帰ったんです! スカンジナビアまで!」
やってられない、と叫ぶいつもより饒舌すぎるエストニアに、リトアニアはしばらく付き合うことになった。

スーさん、僕、重いですから……!
そんなことねぇから、気にすんな
すみません、うぅ
だがら、気にすんなぃ。たまには、いんでね?

思い出すと、いたたまれない。エストニアが、蚊帳の外になった瞬間のことだ。フィンランド、君はいつからそんなに甘ったるい空気をまとうようになったの。
「……塩辛いもの、ありませんか」
おえっ、と言いそうになりながらつまみを要求して、さらに飲もうとするエストニアを、どうやったらなだめられるか。リトアニアはジャガイモをゆでながら考える他になかった。ためしにラトビアを呼んでみるか。いや、余計な体力を使いそうだからやめておこう。





----------------

言うまでもなく、世界番付ねた、でした。たぶん、北欧の飲み会はお預け、デンマークさんがノル君(実は北欧一楽しみにしていた)に首絞められるオチです。
というか、他に酒はなかったのか。



 

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -