仏とセー

どうして、どうして、などと言いながら、フランスは笑っていた。セーシェルは話がよくわからない。それは彼女がフランスと知り合うよりもずっと前の話だからだ。唐突に家にやって来たと思えば、海辺に誘い出して、一人勝手に喋り出した。悲しいことを話しているはずなのに、フランスは笑っていた。過去のことだと割りきっているのだろう、とセーシェルは思った。ときに忘れることも大切だ。そうでなければ、気が重くなる。セーシェルは悲しいことがあっても、歌って踊って、そのうち忘れるまで待つ。いつまでも引きずりはしない。フランスは引きずっているのだ、と最初は見くびっていた。情けない人だなぁ、と。それは違った。たしかにカッコ悪いし、そのくせ美人で、何やら蹴り飛ばしたくなる人だが、やっぱりしっかりした人だった。そんなフランスを、セーシェルは嫌いではなかった。
「どうして、死んじゃったんだろうねぇ」
「そういう運命だったんじゃないですか」
「運命かぁ、うん、そうかもね。俺のために、死んじゃう運命、か。なかなかロマンチックじゃないの」
「いやぁ、フランスさんがそんなんいっても、変態にしか見えませんってー」
「言うようになったな、セーちゃん」
「調子乗りました、すみませんっ」
これ以上言ってフランスが本性を出したら怖い。セーシェルは立ち上がり、海に走っていった。いつぞやのショックな体験を思い出した。フランスの恐ろしい部分に、体が震えた。

「さて、俺は帰るよ」
勝手に人の家の台所を使って作られた夕飯は、いつもよりずっと豪華だった。涎を隠そうともしないセーシェルに、フランスは借り物のエプロンを押し付けた。フランスはまだ夕飯を食べていない。
「忙しいんですなぁ」
大して気にした素振りもない。セーシェルは夕飯を写真に撮っていた。右手にフォークを持って、食べる準備は完璧だ。
「行かなきゃいけないところがあってね」
「それじゃあ、最初からそっちへ行けば良かったんすよ。あ、ご飯はありがとうございます、いただきます!」
「セーちゃんの言う通りだ。じゃあね」
また来るから、といったニュアンスを含んだフランスの言葉に、セーシェルは苦笑いした。今からフランスは大事な人のもとに行く。その前になぜ自分のところへ来たかはわからない。それでも、自分が笑いながら話せる相手の一人であることは、何となく嬉しいものだった。こそばゆくて、セーシェルは黙々と夕飯を食べた。





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確かに恋だった
伝えたい言葉ふたつ5題
5.バイバイ、大好き



 

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