西ロマ



短い夜が明けて、ロマーノが起きると、スペインはすでに部屋にはいなかった。まだ眠い。目を擦りながら、カーテンを開けた。まぶしい光に目を瞑った。朝だ、飯だ。
「……畑、か」
ベッドから降りたロマーノは服を着て、伸びをしながら部屋を出た。
朝食に、コーヒーを淹れて、パンを焼く。二人前、ロマーノ自身と、スペインの分だった。
畑から戻ってきたスペインは、まだ朝だというのに、服が少し汚れていた。おはよう、と言ったら、スペインも、おはよう、と返してくれた。そしてテーブルに置かれていた朝食に、スペインは屈託のない笑みで、ありがとう、と言った。コーヒーは温くなっていたし、パンは何の味もない。それでも、スペインは嬉しそうに食べる。スペインの家で過ごす朝は、いつもこんな感じだ。たまに二人揃って寝坊して、軽食を食べて、遊び始める。
「トマトがな、真っ赤になってたんや。食べたら、収穫、昼はもぎたてトマトの料理にせなあかんなぁ」
そうだな、とロマーノは返す。ロマーノの二杯目のコーヒーは、スペインのと違い、熱い。昼食はトマト料理、と声に出さずに反芻した。
「ごちそうさま。ロマーノ、今日はどないするん?」
うーん、とロマーノは呟いた。正直に言おう。ロマーノには、特別やらなければいけない予定はない。ないわけではないが、ほとんど弟に任せている。さて、どうするかな、と考えるつもりもないのに、わざとらしく言ってみた。昔よりもマイペースが進んだスペインは、焦らすこともなく、ロマーノの言葉を待っていた。きっとロマーノの予定に合わせてくれる。いいやつ過ぎるのは、たまにキズだとロマーノは思う。
「スペイン、カップ、かせ」
半ば奪うようにして、ロマーノはスペインのカップをとった。キッチンで、またコーヒーを淹れた。スペインの手元に戻ってきたカップに注がれていたのは、熱いコーヒーだった。
「うまいトマト、収穫してこいよ」
ロマーノはもうスペインに目を向けず、リモコンを探してテレビをつけた。
「おぅ、待っとってな!」
スペインは上機嫌だった。
たまに労ってやるのも、ありかと思ったり思わなかったり。





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確かに恋だった
伝えたい言葉ふたつ5題
3.おはよう、がんばって



 

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