普洪



時計は、十一時を過ぎていた。ライトをつけて、膝上で眠る犬を撫でながら、プロイセンは読書に勤しんでいた。時間を確認して、そろそろだと思った。夜更かしの理由は、ちゃんとある。
近づいてくる足音に、プロイセンは身構えた。そしてフライパンによる殴打を甘んじて受け入れた。痛い、安物ではないな、このフライパン。前に一度、使用直後のものだったことがある。それはもう、酷かった。驚いた犬が起きてしまって、おとなしく去ってしまった。床に落ちた本は、端が折れてしまっている。
ハンガリーが、立っていた。
プロイセンは、よう、とだけ言った。
「あんた、オーストリアさんにお裾分けするケーキ、食べたわよね」
立腹しているのは、誰が見ても明らかだった。甘いチョコレートケーキは、ハンガリーが明日の一服のために焼いたものたった。プロイセンはそれを知った上で、食べた。おいしかった。ハンガリーが怒ることも、わかっていた。
黙るプロイセンの答えを肯定と受け取って、ハンガリーは、最低、と呟いた。
「嫌いよ、あんたなんか」
「……悪い」
「……そんなに食べたいなら、言えばよかったのよ」
「言えば、俺は、食えたのかよ」
それは皮肉のように聞こえなくもなかった。
互いにそっぽを向いて、閉口した。どちらが先に話し出すか、駆け引きがあった。

「……タルト」
「あら、そう」
沈黙に負けたのはプロイセンだった。ハンガリーの返答は実にシンプルだった。それで無性に悔しくなった。しかし、ハンガリーも淡白と言うわけではなかった。
「明日、えぇ、明日です」
「……待ってる」
「感謝しなさい」
また明日、次こそ正当に、ハンガリーはプロイセンのために菓子を作る。それが楽しみになった。別に、菓子が食べたくて、わざとらしい盗み食いをしたわけではない。ただ、ハンガリーの気をそらしたかっただけなのかもしれない。
ちくたく、時計を見てみた。もうすぐ零時を回る。




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確かに恋だった
伝えたい言葉ふたつ5題
2.大キライ、また明日



 

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