キッチンで繰り返される残虐


日本の家で、メイドカフェや執事喫茶を満喫してきた。料理は普通、だったけれど、その他の部分で大満足した。さすが、日本が案内してくれた店なだけに、上出来だ。あれが本場の猫耳だ、これが燕尾服の真の姿か。何人か、ストライクだった。真ん中にストレート、完璧な投球だった。興奮したけれど、すかさず隣の日本が止めに入ってきた。残念だったような、無事に済んだような。何かひとつ、物足りなかった。
そんな感じで、日本と一日デートを終えて、フランスは自宅に帰ってきた。帰ってきて、玄関で嗅いだ臭いに、背筋が冷えた。鍵は、確かにかかっていた。しかし、いる。嫌なことをしでかしてくれる侵入者がいる。フランスは慌てて廊下を走った。どこへ。決まっている。キッチンだ。自慢の、キッチンだ。
これが一度や二度のものだったら、フランスも納得した。好意によるものだ、と受け取れた。しかし、相手が悪かった。テーブルに置かれた有機物の燃え尽きたあとに、フランスは頭を抱えた。キッチンには、のんきに座り込んで寝ているイギリスがいた。耳元でフライパンを鳴らしてやろう。決めた。その前に、この悲しいなれの果てたちをどうにかしなくては。生ごみとして扱っていいものか、これは。
もったいない、と思った。黒い物体ではなく、これに使われた材料たちがだ。冷蔵庫の中はいったいどうなっていることやら。あぁ、怖い怖い。ごめんな、と謝りながら、イギリスの料理のなれの果てを処分した。

「イギリス、起きて」
最後に良心が働いて、イギリスを揺すって起こした。自分で自分を褒めてやりたいものだ。さすが世界のお兄さん。フランスが少し強めに揺すると、イギリスがうっすらと目を開けた。
「……おそかったな」
「いろいろ聞きたいことはあるけれどね、とりあえず立ちなさい、坊っちゃん」
「……いいにおいがする」
のそのそと立ち上がるイギリスの寝起きの目は、テーブルの上のフランス料理に向いていた。ちなみに今日はプロヴァンス風料理だ。スペインに分けてもらったトマトが何とか生き残っていたからだ。椅子に座ろうとしたイギリスを、フランスは引き留めた。振り向いたイギリスに、指でキッチンを示した。
「食べる前に、フライパンの汚れ、落としてきてもらえる?」
「そんなの、」
「お前がやったんだ。それくらいできるでしょ、大英帝国様なら」
「お前な…」
「それが終わったら、許してあげるよ。一緒に食べようぜ」
よろしく、と頬にキスをする。腹の虫に勝てなかったのか、はたまたフランスのためか、しぶしぶイギリスは蛇口を捻った。その後ろ姿を、フランスは椅子に座って眺めていた。シャツの腕をまくったイギリスは、背筋を伸ばして、フライパンと格闘している。ディープブルーのシンプルなエプロンが似合うかもしれない。料理は駄目だが、こういう家庭的なことはけっして苦手ではない。そんなところが、イギリスの魅力なのかと思った。いつの間にか見とれている自分に、フランスは苦笑した。
「終わったぞ」
「お疲れ様。じゃあ、食べよっか」
「おぅ」
料理は少し冷めてしまっていたけれど、やはり美味しかった。幸せそうに食べるイギリスを見て、フランスは満足した。しかし、大事なことは忘れない。そこはフランス精神だ。
「なぁ、イギリス……」
次にキッチンを散らかしたら、ロンドンで暴動を起こしてやる。





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酸素



 

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