シャンパングラスから溢れる星屑


グラスの中でほのかに色づいたシャンパンが弾けていた。深い夜色の星空を拝みながら、ベランダにて、フランスはグラスを手に気分に酔っていた。アルコールで酔うには、まだ余裕がありすぎた。明日は朝が早い。けれどまだ寝たくはない。夜風に当たってグラスを傾けるのは、何だか気分がよかった。
ごそっと、静かに音がした。妹分がいた。パジャマ姿で眼鏡もかけていない。眠い目を擦りながら、ぼんやりとこちらを見ていた。
「フランスは、まだ寝ないのか」
「ごめんね、モナコ。起こしちゃった?」
「まだ、寝ないのか」
「……寝付けなくて」
「そうか……」
モナコもベランダに出て、フランスの隣に来た。そんな薄着で風邪をひいたらどうするつもりだ。フランスは自分の上着を、モナコの肩にかけた。ありがたく拝借した彼女は、今にも寝てしまいそうだった。それでも目を開いて、じっと空を眺めている。雲の薄い、静かな星空だった。
「流れ星は、見えないのかな」
「モナコは流れ星が見たいの?」
「うむ。先日、イタリアさんが話していた」
そうだ、イタリアも隣人の一人だった。あいつなら言いそうだ。モナコが何を聞いたのかも、想像がついた。イタリアは、のびのびとしている。そんな気がする。けっして皮肉ではなくて、一種のうらやましさのようなものだった。グラスを上げて緩くまわした。しゅわしゅわとはじけるような音がした。
「フランスの飴色みたいだ。飴は甘いけれど、それは甘いとはいえないな」
モナコの視線はグラスの中のシャンパンに向いていた。
「流れ星はどうしたの」
「もっと、現実味のあるものの方が、好き、というか。まぁ、あれだ。私は、こういう身近なものがあればそれでいいと思うのだ」
「シャンパン、好きだったっけ?」
「いや、特別好きではない。ただ、静かな夜のそれは、そそられるな。……なんちゃって」
珍しいこともあるものだ。あまりマナーとしてはよろしくないが、フランスはグラスをモナコに差し出した。それをためらいがちに受け取ったモナコは、ちびちびと口に運んだ。
「……やっぱり、あまり好きな味ではなかったようだ」
「モナコも、まだまだ子供だなぁ」
「ふむ、それは、フランスほどおじさんでもない、ということだな」
「ひどい!」
ぷすっと笑って、モナコはまたシャンパンをちびちびと飲んだ。飴色の飲み物が、嚥下されていく。星を飲んでいるみたいだ、なんて、印象主義なことを言うのは、もうやめておこう。





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zinc



 

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