在りし日はかくも麗しく


あの日は確か、姫様方が揃って渡りに集まっていました。小さな花見でした。庭先には殿様が植樹させた梅の花が咲いていました。春と言えば桜を思い浮かべますが、もともとこの国では、春の花と言えば梅を思い浮かべていたのです。とは言え、あの時代にはすでに、桜の花が浸透していたのですけれどね。梅の魅力も、ずいぶんなものです。今度、ぜひ、皆様もご覧になってください。私が名所をご案内します。
そうですね、姫様方が梅の花を楽しんでいる間、私は少し離れて同じ花を見ていました。私も呼ばれてはいたのですが、女子しかいない中に一人混ざるのは、気が引けましたのでね。イタリア君、あなたと私では違うのですよ。いえ、あなたが混ざっても、あまり違和感を感じないのは不思議ですね。ドイツさんは……、……恐れ入ります、すみません。その時はハンガリーさんやプロイセンさんをお呼びしますので、問題ありません。
そこで私は、柱の影に隠れていた一人の小姫を見つけました。見慣れない姫でしたので、名前を訪ねようかとも思いました。しかし私に見つかったのが恥ずかしかったのか、口を開いてはくれませんでした。あちらの姫様方のところには行かれないのですか、と問えば、やっと返事をくれました。ここでずっと見ていたいそうで、かえって私が邪魔をしてしまったようです。退こうかとも思いましたが、小姫が許してくださったので、二人で花見をしました。袖に隠していた菓子をお礼に差し上げると、小姫がやっと笑われましてね。愛くるしいものでした。今、ロリコンと言ったのは誰ですか。このあとを楽しみにしていてくださいね。
私はしばらく、小姫と花見をしていました。特別会話があったわけでもなく、実に静かな時間でした。小姫は菓子を食べながら、梅と、姫様方を見ていました。本当は、小姫はあちらに行きたいのではないか、とも思いましたが、小さな彼女があまりにも大人びて見えて、なにも言いませんでした。やがて姫様方が私に気づかれて、会釈をなさいました。私も軽く頭を下げて、ためらいがちに手を降りました。末子の三の姫様がそんな私に、こちらへ来るように言われました。これを機に、小姫を連れ出そうと思い、頷いたのです。しかし、小姫はいつの間にか、いなくなっていました。さすがに慌てました。あたりを見回しましたが、やはり小姫はいませんでした。
姫様方の傍へ行き、一の姫様が丁寧に挨拶してくださいました。さすがは武家の姫御前と思う振る舞いでした。そんな彼女に、私は小姫のことを尋ねてみました。彼女は小姫など知らないと言うのです。では、小姫はいったい、誰なのでしょうと疑問に思いましたが。答えは存外、簡単なことでした。だいぶ、あやしく、信じがたいものではありましたが。
梅の木の下に、小姫が立っていました。彼女は私に、菓子をありがとう、とだけ言って、また消えてしまいました。ねぇ、不思議なものですよね。

「ヴェー……、日本ー」
「はい、なんでしょう」
「その小姫ちゃんって、結局さ、どういう人なの?」
「おや、難しかったですかね。ドイツさんは、わかりましたか?」
「あぁ、なんとなく、な」
「では、イタリア君、後でドイツさんにお聞きください」

「あのあと、好奇心の強い三の姫様にも聞いてみたのですがね、梅の花しか見えなかったそうです」

初春の、麗らかな記憶です。






---------------

透徹

苦戦した結果、こういう話になりました。夏らしく、と思ったところ、季節は春でした。



 

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -