金魚とgoldfishじゃ雰囲気が変わるよね


水槽の中で一匹の金魚が泳いでいる。人工の水草の間を移動し、時おり岩のくりぬかれた穴を潜る。狭い水槽の中では、他にやることもないのだろう。せっせと泳いでは、餌を請うている。その様子を、日本はただ座って見ているだけだった。目線を合わせて、じーっと、一匹の金魚を眺めていた。
「それって楽しいのかい?」
若くて活動的なアメリカには、この静かな時間が耐えがたいものだった。日本の家にやって来たはいいが、肝心の家主は、金魚に夢中になっていて、突然の訪問者にも反応が薄い。
「楽しいかと聞かれると、そうでもないですね」
「じゃあ、何で、そんな食い入るように見ているんだい」
「とくに、理由はないかと。しいて言うならば、おもしろい、といいますか」
「おもしろい?」
アメリカはますます理解できないと、頭を悩ませた。ひとしきり唸って、日本の隣に腰を下ろして、自分も金魚を見つめた。特別大きくも小さくもないそれは、大人二人の視線も気にせず、自由に泳いでいた、いや、自由といっても、狭い水槽の中だ。つまらなくないのだろうか、とアメリカは思う。自分だったら、せめて仲間がほしいところだ。イギリスや、あるいはカナダ、日本のような、いつでも駆けつけられる仲間がいたならば、いくらか楽しみができる。はて。
「一匹しかいないのかい」
「本当は、もう一匹いたのですよ、出目金が一匹。先日、死んでしまいました」
やはり、弱かったです、と日本は言う。出目金だけではなく、不必要に手を加えられた生物は、弱い。
「自然体が一番ですよね、何もかも。この子を見ていると、癒される気がします」
「やっぱり、俺にはよくわからないんだぞ」
「構いません。それでいいと思います」
おもむろに、日本が立ち上がった。
「申し訳ありません。私としたことが、お客様にお茶も出さずに……、お待ちください、すぐに用意しますので」
せっせと、先ほどまでの静かさとは一転して、日本は台所へと向かった。運ばれてくるであろう茶菓子を楽しみに待ちながら、アメリカは再び金魚に手を向けた。ぱくぱくと、水面に顔を出していた。それでポンプが外れかけていることに気がついて、急いで直してやった。金魚はまた元気に、水中を泳ぎ始めた。たしかに、これはおもしろいかもしれない。
そのうち日本が戻ってきて、冷たい麦茶とカステラが出てきた。グラスの中で氷が音をたて、より涼しげだ。カステラを頬張って、麦茶で喉を潤した。
日本が手に取ったのは、麦茶でもカステラでもなく、赤や橙色の小さな欠片、金魚の餌だった。
「アメリカさん、あげてみますか?」
「やってみるんだぞ」
日本から少量の餌を受け取って、アメリカは水槽に落とした。アメリカには少なさそうに見える餌も、金魚にはちょうどいいらしい。水面に浮かぶ餌をぱくっと一つずつ口にいれる様は、愛嬌がありかわいらしい。日本が隣で呟くのを、アメリカは、少しだけ理解したような気がした。










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元ねたは、今我が家で買ってる金魚(名前はあかお)君。部活で世話している金魚ちゃんの仲間ですよ。←

画像は菊咲月さんより。



 

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