繋いだ手の中にあったもの



フランスでも酔っぱらうことはあるようだ。たとえ得意のワインだとしても。そっと、ほんとうにそっと、おそるおそるといったように、右手に触れるものがあった。温かいそれは、フランスの左手で、イギリスが何も言わないでいると、指と指が絡まった。何なのだ、いったい。どうして今、手を繋いだのだ。隣の気取り屋を見やれば、案の定、へらへらと笑っていた。
「気持ち悪いんだよ、髭」
「俺は、すごく楽しいよ」
「はぁ?」
「あぁ、うん、幸せー」
酔っぱらいは顔を赤らめながら、繋いだ手をうっとりと見つめ、肩に寄りかかってきた。吐息が若干酒臭い。できあがっているぞ、この髭! あまり飲まなくてよかった!
ふにゃふにゃと笑い続けるフランスの頬を、イギリスはつねってみた。右手は使えないので片手だ。いたい、という声はもちろん無視だ。それでもフランスは抵抗しなければ、手も離さない。それが愉快であり、優越感があった。意外とやわらかな頬を、ぷにぷにとつついてみる。昔は、文句なしの美少年だった。見た目は、問題なしだった。しかしだ、今はどうだ。平気で脱ぐし、髭だし、変態だし。イギリスは顔をしかめた。人のことを言えないというのは、この際気にしてはいけない。ともかく、今寄りかかってきているこの腐れ縁に、可愛いげなどあるはずないのだ。あるはずはないのだが。
「……フランス」
「ん、坊っちゃん、大好きだよ」
酔っぱらいの戯言は無視して、イギリスは握ったままの手を持ち上げた。何をするのかと思えば、そのままフランスの指先に唇を寄せた。恭しく、そこはさすがの紳士だ。フランスはそれに気をよくしたらしく、自分から口付けてきた。酔っているからか、もともとか、拙くもしつこいくらいのキスだった。
「なぁ、イギリス、俺と恋人になろうか」
誰がお前なんかと! 口から出る言葉はいつも通りだが、満更でもなかったようだ。二人の手は、まだ繋がったままで、ソファーに座る二人に距離はなかった。




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風雅




 

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