誰にでも優しい人


「人気があるんですよ、趙雲殿は」
指導は上手でわかりやすいし、なによりかっこよくて、穏やかなのに熱い。生徒からだけではなく、他の先生方からも頼りにされている。
さすがですよね、と姜維は語った。それを馬超は悶々と聞いていた。妙な満足感と、簡単で厄介な嫉妬。趙雲殿は俺の、俺の恋人なのだ!
教育実習生としてだが、趙雲と同じ場所で過ごせると浮かれていた馬超は、生徒の姜維からいろいろな話を聞いた。そういう、いろいろな話を。
「ですから、馬超殿、お気をつけくださいね」
愚問だな、はっ。かっこよくはないですよ、趙雲殿と違って。

「それでわざわざここまで着たというのですか」
教官室でプリントを作っていた趙雲のもとに、馬超は押し掛けるように迫ってきた。何を考えたのか、向かいで作業していた諸葛亮(同僚、たぶんきっと一応同僚)が部屋を出ていってしまった。気をきかせてくれたのかもしれない。馬超にとっては好都合だった。これで二人きりだ。
「全く、あなたも、明日は授業があるのでしょう。準備は大丈夫なのですか」
「そんなことより!」
パソコンのキーボードに置こうとした趙雲の手を、馬超が奪うように握り締めた。
「あんな話を聞かされて、不安になるのは、俺だけなのか」

「はい」
「えー……」
満面の笑みで肯定した趙雲に、馬超は肩を落とした。
「まるで子供のようだ。阿斗様でさえ、今ではそんな態度はしないというのに」
打ちのめされた気分になった。もう何も言えなくなって、逃げ出したいと、馬超は立ち上がり、ドアに手をかけた。
「そんなあなたも、私は好きですけれどね」
「趙雲殿……」
「私のことで、そんなに一喜一憂してくれる馬超殿は、可愛くて仕方がない」
たまらなくて、馬超は趙雲に抱きついた。仕方ない、と趙雲も腕を回してくれた。本当は「可愛い」ではなく「かっこいい」と思われたいのだけれど、今は我慢することにした。
「あなたは私のもの、なんて、ね。楽しいですね」
「じゃあ、俺も、俺は、趙雲殿を独り占めしたいものだ」
「頑張ってみてください。まぁ、無理でしょうけれど」
「言ってくれる」
互いに顔を見合わせて、小さく笑った。


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元拍手
色々30題其の30
楽譜。



 

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