この手を掴んでいて

関索が行くなら、あたしも行く。駄目だ、出兵先は危ない。何が起こるかわからない。そんなところに、可憐な君を連れていけないんだ。嫌だよ。あたしだって戦えるし、関索のいつだって隣にいたいの。
そんなやりとりがあって、鮑三娘は蜀軍の北閥に同行していた。武器を引っ提げ、関索の隣を歩いた。前に出ようとする関索の隣に無理矢理着いた。後ろに立つということは、守られる立場ということだ。関索の足を引っ張るかもしれない。それではいけない。鮑三娘は戦争に行きたいわけでもなく、守られたいわけでもない。一緒に戦って、この辛い道を進みたいのだ。面倒だけれど、毎日訓練もした。星彩と手合わせもした。月英に兵法を教えてもらった。武芸には自信がある。大丈夫、だから怖いものなどない。周りの兵士の張りつめた冷たい空気で、体が突き刺さるように痛かった。これが、国力のぶつかる戦なのだ。それを鮑三娘は初めて知った。
「今からでも遅くないよ、成都に戻るかい」
「大丈夫だよ、あたしは強いしね」
今さらひとりで帰ることはできない。鮑三娘は得物をしっかりと握りしめていた。

木々の薄暗い、そういう場所であり、なおかつ見慣れない動植物がある森のなかだ。そこが鮑三娘の戦場だった。周りには趙雲や部隊に配属された兵たちがいたはずだった。それなのに、はぐれてしまった。一人で旋刃盤を片手に、前へ出すぎていた。焦りすぎたか。くれぐれも独断行動はやめてくれ、と軍師が言っていた。本当は派手に突撃して活躍したい。それが自分らしい戦い方だ。しかし、それでは策が成功しない。自分一人のせいで兵を失っては、責任を終えない。鮑三娘も、そのくらいの良識は理解しているつもりだ。
鮑三娘は周囲を見渡した。妙に静まり返っていて、背筋を嫌な汗が伝った。関索は今どこにいるのだろう。無事だろうか、など、それよりも自分のほうが怪しい。もしかして、と思考を巡らせていると、がさがさと音がした。槍を構えた大柄の男が数人、鮑三娘を囲むように現れた。誘い込まれたのかな、などと呑気に考えている余裕はなかった。油断したら取られる、と本能的に察知した。避けきれるか、討てるか、武器がひどく重かった。
「あたし、強いし……!」
自分を勇気づけて、鮑三娘は槍を交わして、男の懐に入り込んだ。蹴りを食らわせて、その勢いで旋刃盤を大きく回して一気に切りつけた。これだけではまだ無理か、立ち上がる男たちに、武器を向けた。いくら攻撃範囲に余裕があろうと、これだけの槍兵を相手にするのは厳しかった。一人が槍を大きく薙ぐ。受け止められるわけもなくて、一歩半飛び退いて避けたところで、鮑三娘は後悔した。足がもつれたのだ。嫌な笑い声を聞いた。これはマジでヤバイかも、まっすぐに突こうとしてくる槍の動きが、やたらとゆっくりと見えた気がした。
終わった、と思った。
槍が宙に投げられ、男は腕を押さえていた。
「君は、本当に、目を離せないよ」
泣きそうになった。体から力が抜けて、鮑三娘が尻餅をついた。さのまま動けなくなり、その間に、一方的な武術の音だけが耳に入ってきていた。
「関索……」
「心配したんだ、本当に、心配したんだ」
あっという間の武功に、関索の強さを改めて知った。いや、自分の弱さを知らされた。泣きたくなった。けれど、ここはまだ戦場で、関索の前で泣いてはいけないと思った。
「ごめんなさい、関索」
「いいんだ。ただ、もう無茶はしないでくれ。愛らしい顔に傷がついたら、大変だ」
うん、うん、と鮑三娘は頷いた。
なかなか立ち上がれない鮑三娘の腕を、関索は引っ張った。そのまましっかりと掴まれて、鮑三娘は少しだけどきりとした。
「幕舎に戻って、休まなきゃね」
関索の頭の花が、静かに揺れた。
ありがとう、関索。




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でもこういうときは、手を繋ぐものだって。

SCHNEIEN



 

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