終焉ファンファーレ


成都には劉禅がいる。常に変わらぬ笑顔で、前を見ていた。
「これも、蜀のため、劉禅様、あなたのためなのです」
北伐の正当性を説くのは、先人の意志を継がんとする姜維だ。机上には、次の戦の策を記した書がある。それを曖昧に見ながら、劉禅はゆっくりと頷いた。控えていた星彩が、憂いを帯びた顔で地図を見ていた。
「蜀のため、私のため、できれば、これで終わらせたいものだ」
劉禅のそれを是と受け取った姜維は、足早に退出した。おそらく彼は、君主の真意に気づけなかったのだろう。それでも劉禅は気にも止めなかった。
今度こそ、必ず、先人たちの悲願を達成してみせる、と。姜維を止められる者はもういない。
「劉禅様、」
「戦となれば、そなたは前線で戦っていくのだろうな」
「私の、使命です」
「星彩は、強いのだな。凛々しく、可憐な、我が希望の星よ」
「どうなされたのですか」
星彩もまた、大切な人の、先人たちの意思を継ぐ戦士の一人だ。戦線に立ち、剣を握る。その姿は女性ながらに勇ましい。
ときおり、劉禅は考える。嫌にならないのだろうか、と。平和な時勢に生まれ、普通に暮らせさせたらよかったのにな。
「此度は私も出向こう」
「危険です、どうか、」
「案ずるな。我が身は我が剣で護れる。いや、」
我が身だけではない。
劉禅は立ち上がり、成都を見ようとした。当然、ここからでは一望などできないが。かつかつ、と歩けば沓(くつ)の音が響く。
暗愚にもできることはある。我が身は恋しい。それだけが恋しいことはない。蜀の地も、民も、劉禅は救おうとしていた。それはまさしく、彼にしかできない方法だ。
劉禅の意図を察し、星彩は黙って俯いた。彼女は迷っていた。北を目刺し戦うことに、意味があるのか、正解なのか。答えは誰も知らないし、探そうともしない。意味はない、間違いだとしたら、彼らはもうどうすることもできない。戦うことしかできない。そこまで来てしまっていた。
難儀な世は、もう結構だ。

なぜそのように嘆くというのだ。わからぬな、私は暗愚ゆえ、理解できぬのだ。




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空想アリア





 

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